3月危機が始まった--受注半減!!倒産列島・日本を歩く
「会社は家族経営。だが、息子はまだ独身なのでクビにして、会社として雇用調整助成金を受けるべきかどうか」。市内の中小企業向け相談窓口には、こんな相談が引きも切らない。
上尾市は県内でも製造品出荷額が上位に位置するモノ作りの町だ。戦前に東洋時計製作所が移転してきたことが近代工業の先駆けとなり、戦後は労働争議で崩壊した同社の熟練技術者が独立創業し、市内の金属加工業集積の母体となった。市内の事業所数は1990年をピークに後継者難などから減少する一方だったが、そこへ今回の不況が直撃した。
「いざなぎ景気越えとも言われたが、中小企業はその実感もないままに不況に突入した。この2~3年、仕事は忙しかったが、原材料高に追われて好況感はまるでない」
市内で自動車部品の製造工場を営む社長の実感だ。日産自動車の部品を生産し、過去のゴーン改革の荒療治にも耐えて生き残ってきた。だが、「12月の受注は3~4割減で、1月の注文は半分に減った。過去にも不況はあったが、今回は仕事がないのが特徴」と言う。貸し渋りについても「今はカネより受注が欲しい」と語る。
埼玉県内では、ここに来て自動車関連の中小企業の倒産が目立つようになってきた。帝国データバンクのまとめによると、1月には越谷市や上尾市などで自動車部品メーカーが3社自己破産を申請。自動車のバックミラーなどを製造している日産系の2次下請け部品メーカーは、受注減少や単価値下げの影響で売り上げがジリ貧化。「今後は自動車メーカーの減産の影響などで、下請け企業の倒産の増加が予想される」(帝国データバンク大宮支店)という。
「小規模な中小企業ほど、内部留保はそんなに蓄積していない。資金繰りに窮して、老後のためにとっておいた保険や事業主退職金を解約する社長もおり、今後の経営意欲に影響を与えている」(上尾商工会議所)という声も上がる。
大手企業の下請け中小企業群に、戦後最悪の不況の影がじわりと忍び寄っている。
信用保証協会による緊急保証制度やセーフティネット貸し付けのほか、大企業向けには産業活力再生特別措置法を使うなど、資金調達が困難な企業に出資する仕組みも検討されてはいる。だが、売り上げ自体が大幅に縮小している以上、金融だけで企業を支えるには限界がある。
埼玉県は上田清司知事の下、積極的な企業誘致策をとってきたことで知られる。緊急保証の対象業種も全国に先駆けて全業種に拡大してきた。しかし、「保証付き融資の限度額を広げたので、借りる余力さえあれば、実績は伸びるはずだが、借りることさえできない中小企業もあるようだ」と、埼玉県の制度融資担当者は打ち明ける。