「育休3年」女性差別で、男も女も損をする アベノミクスの「女性活用」って、本気ですか?

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だからこそ男性も肩の荷を下ろして……

またそれは、妻子を養うという重荷から、男性を解放するという意味も持ちます。1998年から2011年までの14年間、日本の自殺者は3万人を超えていました。自殺者の7割は男性です。そしてこの時期に急増したのは、40代から50代の男性でした。経済上・生活上の理由による自殺が増えたことが一因で、この年代では自殺者の8割が男性です。

家計を支えるという重荷に耐えかねて、死に追い詰められる男性がいるということは、もっと深刻にとらえられるべき現象ではないでしょうか? 「24時間戦えますか?」だの「働け」だのという、前回取り上げた栄養ドリンクのCMは、だからこそ本当に恐ろしいのです。

それでも高度成長期は、日本経済が年率10%で急成長し、男性の稼ぎのみで生活できる世帯がどんどん増えていきました。男は仕事、女は家庭、子どもが2人、といういわゆる「標準家庭」、別の言い方をすれば、1頭立て馬車体制です。しかし少子高齢化が進み、経済の急成長は望めないこれからの時代、働く人の収入が増え続けるとは考え難く、馬車を2頭立てにしていくことは、日本社会としても、また家計のリスク管理の問題としても、重要な課題となってきます。

そこでもし女性が外で働くだけで、男性が家事をしなければ、これは単に、女性に二重の負担を強いるだけです。現在の日本では、正社員の男性の労働時間のみが延び、一方で働く人の非正規化が進んでいます。それに対処するためにも、残業代の割増率を大幅に上げて、男性の残業を減らし、その分、働く人の数を増やし、それを通じて、男性も家事・育児、あるいは介護に参加できる環境を整えることが不可欠です。

少子高齢社会では、高度成長期よりも2頭立て馬車の世帯が増えていくでしょう。そこで「女性の活用を」というのなら、男性の家事・育児参加とセットになっていないかぎり、何の解決にもなりません。そしてそれは、男性を稼ぎ手としての重荷から解放することにも、つながるはずなのです。

瀬地山 角 東京大学教授

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せちやま かく

1963年生まれ、奈良県出身。東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了、学術博士。北海道大学文学部助手などを経て、2008年より現職。専門はジェンダー論、主な著書に『お笑いジェンダー論』『東アジアの家父長制』(いずれも勁草書房)など。

「イクメン」という言葉などない頃から、職場の保育所に子ども2人を送り迎えし、夕食の支度も担当。専門は男女の社会的性差や差別を扱うジェンダー論という分野で、研究と実践の両立を標榜している。アメリカでは父娘家庭も経験した。

大学で開く講義は履修者が400人を超える人気講義。大学だけでなく、北海道から沖縄まで「子道具」を連れて講演をする「口から出稼ぎ」も仕事の一部。爆笑の起きる講演で人気がある。 
 

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