正念場の国家公務員制度改革、天下り・渡り斡旋と年功序列を廃止せよ
昨年末の官僚の“暴挙”にこの1カ月間、永田町は揺れ動いた。官僚の暴挙とは、昨年12月19日に、各省庁による国家公務員の再就職(天下り)斡旋や、再就職を繰り返すいわゆる「渡り」の斡旋を事実上、容認する政令を閣議決定させてしまったことだ。政令を書くのは官僚だが、政治家がその詳細を閣議の前に全部チェックするのは、ほぼ不可能だ。そうした実態を悪用し、従来の法律の内容を覆す政令を閣議に提出したのである。
安倍晋三内閣時代の国家公務員法改正(2007年7月)によって、各省庁による天下りや渡りの斡旋は禁止となり、昨年末に内閣府に設置した官民人材交流センターに集約することが決まった。経過期間の当初3年間は、センターを介さなくても内閣府に設置する再就職等監視委員会が承認した場合に限り、斡旋を認めることにした。
ところが、民主党の反対で監視委員会の委員が今なお決まらないため、斡旋禁止が前倒しとなる可能性が強まる。これに慌てた官僚が政令で、斡旋の承認権限を監視委から首相に移してしまったのだ。
首相が膨大な件数に上る天下りや渡りの内容をいちいち精査するのは不可能だから、斡旋はこれまでどおり続くことになった。
いったん法律で決めたことを、法律より下位に位置する政令で国会審議を経ずに変えてしまう。このやり方に与野党からは厳しい批判が続出。麻生太郎首相も、当初の「厳格に運用する」から、「斡旋の申請が出てきた場合にも認める考えはない」に発言を修正。ついには、「渡りと天下りを今年いっぱいで廃止する政令をつくりたい」と発言せざるをえなくなった。
それでも怒りが収まらないのは、07年の国家公務員法改正に尽力した渡辺喜美・元行革担当相だ。「麻生総理になってから、公務員改革は完全に停滞している。本気でやる気がないんじゃないか」。
財務省出身の高橋洋一・東洋大学教授も、「政令で法律の内容を変えてしまうようなやり方は違法行為だ。こんなことを認めたら、法律はどうなるのか。国会議員が怒るのは当たり前」と憤る。
政治をも支配する官僚
言うまでもなく、日本の官僚制の最大の問題点は、省庁ごとの縦割り行政が生み出す省益優先主義である。それを支える最も重要な仕掛けが、各省庁による天下りや渡りの斡旋だ。
国家公務員試験に合格すると、官僚は省庁ごとに個別採用される。省庁ごとのファミリー意識に染まりながら、年数を重ねるうちに国益よりも省益を優先する考え方にどっぷりとつかるようになる。
なぜそうなるかといえば、最終的に、個別の省庁が天下りや渡りを斡旋し、退職後まで手厚く面倒を見るからだ。ある政策を実施する場合、それが国益にかなうとしても、天下り先を減らすことになるなら、官僚たちは激しく抵抗する。
もちろん、天下りには弊害が多い。省庁が天下りを斡旋する場合、公益法人や民間企業などから要請されるからであり、押し付け的ではないと言うが、「実際は省庁側から天下り先に依頼していることがほとんど。管轄の省庁から頼まれたら、天下り先は拒否できない」(高橋教授)。管轄する業界の特定企業に官僚が天下れば、行政の中立性は損なわれ、「官製談合」などの温床にもなる。
押し付け的な天下りでは、国が補助金などで優遇するケースも多い。それがあるから、公益法人や民間企業も我慢するわけだ。これが、税金の無駄遣いにもつながる。