「両利き経営」実現にはトップの覚悟が不可欠 変革が必要なのに「なぜ変われない」のか

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入山:面白い! そうやって事前から、徐々に刷り込んでおくわけですね。私が学者として観察していると、「よい経営者は時間軸の見方が明確でかつ長い」という印象を持っています。例えば日本電産の永守重信さんは、いつも30年先の話をされます。冨山さんは何年先くらいまで見るのでしょうか。

冨山:私も30年くらいですかね。高度成長30年、平成の停滞30年と、産業サイクルは30年単位ですから。例えばパナソニックであれば、産業イノベーションの軸と、どの国のどの地域の人口や教育水準が上がっているかという軸で考えます。そういうデモグラフィックは予測できるので。また、長い時間軸の中で何を急ぐべきか。この時点でこれをやるには、何に早く手を付けなくてはいけないかという順番も考えますね。

オムロンの取締役会では、山田義仁さんを社長に選んだ瞬間から、10年後に次の人を選ぶことを考え始めました。現時点と10年後とでは、後者のほうが明らかに社長に求められる要求が高いから。早い段階からシステマティックに候補者を見つけて育成できるよう、制度整備に取り掛かっています。

前提を疑うためには、多様性が不可欠

冨山:変革するときに、人間は放っておくと、余計なものを増やしていきます。境界条件に関する与件をたくさん設定し、問題が解けなくなってしまう。両利き経営では絶対にその問題にぶつかるはずです。そのままでは動けないので、与件のいくつかを壊すことを考えたほうがいい。そうすると、急にその境界条件が緩和されるので、選択肢が増える。ここは肝だと思います。

そのときに大事なのが、多様性です。同質的なところに与件を設定するので、その前提条件がおかしいという意見が出てこなくなる。破壊的イノベーションのネタを入れるときには、会社の中で与件となっていることと必ず衝突するので、「それは現在でも合理的か」と検証しないといけない。誰も疑問を持たず、使えない理由ばかり挙がってきたとしても、実際には、使えない理由の前提がおかしいことも多いのです。

入山:経営学にある制度理論という考えでは、「人間は基本的に同質化する傾向がある」と主張されています。私なりに言えば、人は「それが常識だから」としたほうが考えなくていいので、脳みそが楽になるからです。この変化の時代に「常識」ほど恐ろしい言葉はない、と私は考えています。

冨山:確かに、常識やドグマは、サボるための道具ですね。変革が必要だと、口で言うのは簡単だけども、行動には本音が出ます。今あるものを何とか伸ばそうとしてしまい、リストラもできない。しかし、そこを乗り越えられないと、また負け戦になる。機械系や素材系など、これまで生き残った分野でも、第四次産業革命やAI(人工知能)フェーズで負け戦になれば、取り返しがつかないわけです。外部環境が強烈に変わって、内部環境の転換が迫られる中で、経営者がまず動かないと、ほかにする人はいない。これが両利きの経営についての私の結論です。

入山:冨山さんからお話を伺って、両利きの経営では経営者がカギだという確信が深まりました。ありがとうございました。

[構成:渡部典子]

冨山 和彦 経営共創基盤(IGPI)グループ会長

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とやま かずひこ / Kazuhiko Toyama

経営共創基盤(IGPI)グループ会長。1960年東京都生まれ。東京大学法学部卒業、スタンフォード大学MBA、司法試験合格。ボストンコンサルティンググループ、コーポレイトディレクション代表取締役を経て、2003年に産業再生機構設立時に参画しCOOに就任。2007 年の解散後、IGPIを設立。2020年10月より現職。共著に『2025年日本経済再生戦略』などがある。

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入山 章栄 早稲田大学ビジネススクール教授

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いりやま あきえ / Akie Iriyama

1972年東京都生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業、同大学大学院経済学研究科修士課程修了。三菱総合研究所で主に自動車メーカーや国内外政府機関へのコンサルティング業務に従事した後、2008年にピッツバーグ大学経営大学院よりPh.D.を取得。ニューヨーク州立大学バッファロー校ビジネススクールのアシスタントプロフェッサーを経て、2019年より現職。専門は経営戦略論、国際経営論。著書に『世界標準の経営理論』などがある。

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