「両利き経営」実現にはトップの覚悟が不可欠 変革が必要なのに「なぜ変われない」のか
入山:日本企業がそれをできない1つの原因としては、やはり終身雇用制度の仕組みがあるからでしょうか。
冨山:それを言い訳にしている気がしますね。私は仕事柄、日本の経営者の中でいちばんリストラをやってきた1人だと思いますが、少なくとも、再生というところまで追い詰められたときに、日本の雇用制度や解雇規制が決定的な障害になって、人を減らせなくて困ったことは一度もありません。ということは、もっと余裕があるときなら、かなり上乗せと時間を与えて希望退職を募ることができる。もっと前なら、事業売却という形で、リストラはゼロでできる。トータルで見ると、解雇規制の議論は関係ないと思います。
ストレス回避の思考が両利きの妨げとなる
入山:やはり、経営者の覚悟の問題ということですね。ところで、日本の大企業では、内部でイノベーションを生み出そうとする傾向がありますが、M&Aでベンチャーを買ってもいいわけですよね。
冨山:もちろん構わないけれど、難しいのは、M&Aで吸収するのが、単に技術だけではないこと。会社を買収すると、人がついてきて、その会社のやり方や価値観を融合させないといけない。そこは会社の基本OSに触れるところなので、ストレスフルですね。とくに、海外の違うノリの会社になると、自分ではやりたくない。その種のストレスを回避したほうが、成功確率が高くなると考えてしまう。
実際に、オープンイノベーションごっこをやっても、それがコア・ストラテジーになっていないところが多いでしょう。あくまでも外付けで、付加的なものという位置付け。そこを何とかして、ビジネスモデルを組み換えしないと、未来がないとして、トップがコミットしているところは少ないですね。ここは、両利き経営をやろうとするときに、たぶん日本企業が苦労するところでしょう。
リーダーは相当頑張って、何を変革するか、しないかの切り分けをしないといけない。さらに、変革が許されている時間軸も間違えないことも大事。今、儲かっている状況にいる人にとって、いつ来るかわからない未来は永遠に来ないものと同じです。お腹が痛くなる前に、これからお腹が痛くなると言っても誰もピンとこない。響くときは天の時、地の利があるのです。
入山:なるほど……。適切な戦略であっても、タイミングをうまく見極めないと、組織の中にいる人たちは動かないわけですね。冨山さんは、そのタイミングをつねに見極めようとされている。
冨山:社外取締役として、自分の中でこうなるだろうな、でも、これを言ってもみんなピンとこないだろうなというのはつねに考えますね。もちろん、本気でまずいと思うときには、議案を止めに行きますが、それをやってもまだ会社が潰れることはないときは、賛成するにしても、一言文句は言っておく。世界はこうなっていて、将来はきっとこうなるから、この投資をやると、何年目かで問題が起きますよ。その時にどうするか、皆さん対策を考えたうえで投資してくださいね、と。そうすれば、後でうまくいかないときに、それ見たことかと言えるし、リカバリー策も早くとれます。