「両利き経営」実現にはトップの覚悟が不可欠 変革が必要なのに「なぜ変われない」のか

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入山:ははは。でも、このあたりは、まさにそれを実践されてきた冨山さんならではの発言ですね。実際、社内からそうした反発が起こるときに、冨山さんはどうやって抑えたり、ガス抜きしたりするのですか。

冨山和彦(とやま かずひこ)/経営共創基盤(IGPI)代表取締役CEO。1960年生まれ、東京大学法学部卒業、スタンフォード大学経営学修士(MBA)、司法試験合格。ボストンコンサルティンググループ、コーポレイトディレクション代表取締役を経て、2003年に産業再生機構設立時に参画し、COOに就任。2007年の解散後、IGPIを設立。近著に『社長の条件』(中西宏明氏との共著、文藝春秋)がある(撮影:今井康一)

冨山:私の場合は、一生懸命に聞いて、同時に心も痛める。君たちは間違っている、とインテリたちは論破しがちですが、それはあまり生産的ではないですね。なぜ君たちは生きるに値しないかを論じて、相手を追い詰めるだけ。腹落ちせずに、怨嗟ばかりが残る。

不幸にも、入れ替えられてしまう機能や事業に長年属した人には、罪はないのです。時代の流れの中で、たまたまそこに居合わせた明治維新の士族みたいなものだから。その人たちが、どう穏やかに、人生が壊れないように、トランジション(移行)させられるかが大事です。だからといって、変革をやめるわけではありませんが。

入山:なるほど、トランスフォーム(変身)とトランジションの使い分けですか。確かに、若手は新しい環境に適応できても、年齢的にトランスフォームできない人も出てくる。そのときはトランジションが必要なわけですね。

早期に手を打てば、過酷なリストラは避けられる

冨山:その脈絡で言うと、例えば、ガバナンスでROE(自己資本利益率)やROIC(投下資本利益率)を見るやり方は大事だと思います。というのは、ROEやROICベースでハードルレートを設定すると、PL(損益計算書)が赤字になる前に、撤退や縮小を検討することになるから。自社にとってノンコアの事業だと判断しても、他社ではコア事業にする場合があるので、そういうところに売却したほうが過酷なリストラにならないのです。

入山:本当にそうですよね。私の理解でも、例えば、デュポンやシーメンスなど、グローバル企業で仕組みがうまく回っている会社は、20年くらいで事業ポートフォリオがガラリと変わっています。安く買って、いいときに売る。そのほうが売りやすいですよね。

冨山:それに加えて、リストラをしないで済む。だけど、日本の多くの会社は、その逆をやるのです。事業の数を増やしていくが、減らさない。それで前線が広がって資源が分散し、ボロボロになり、赤字が4~5年も続き、追いつめられてから売却する。しかも、リーマンショックなどの悪い時期に行うので、買い手もいない。そうなると、大リストラをしないと売れない。それがいちばん、関わっている人が不幸になるパターンです。

だから、当事者からすると、「なぜ今か」と思うくらい早いタイミングで売却するメカニズムを、経営の基本OSに組み込むことが大切だと思います。まだ会社に金があるのなら、その人たちのために上乗せ退職金や時間を作って、できるだけスムーズなトランジションで背中を押す。なんとかこの範囲で乗り切るのがいい経営で、人間にやさしい経営だと思いますね。

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