細川元首相の主張、時代に逆行するリスクも 武者陵司・武者リサーチ代表に聞く

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1月20日、武者陵司・武者リサーチ代表は東京都知事選について、細川元首相が時代の流れを読み切れずに立候補を表明した可能性があると指摘した。写真は昨年9月、都内で撮影(2014年 ロイター/Yuya Shino)

[東京 20日 ロイター] -武者陵司・武者リサーチ代表は、23日告示・2月9日投開票の東京都知事選について、細川護熙元首相が時代の流れを読み切れずに立候補を表明した可能性があると指摘した。

安倍晋三政権になって国民の期待は「劇場型理想主義」から「実現する政治」に変化しているとし、現実主義の舛添要一氏の当選がより日本にとってプラスになるとの見方を示した。

細川氏が主張する原発廃止には膨大なコストがかかり、国民が求める強い日本が実現できるわけではないとしたほか、今や日本における求心力の象徴となっている東京オリンピックに消極的姿勢を示すことも、時代に逆行すると見ている。

ただ、当選した場合には、国政レベルで安倍政権への対抗軸ができ、安倍首相の政策遂行にもブレーキがかかる可能性があるとした。

<劇場型から実現型政治への変化>

20日にロイターとのインタビューに応じた武者氏は「安倍政権になって、国民の期待は、スローガンの政治から実現する政治へと変化した。生活が安泰な中では弱者や環境への配慮や中国などにも目配りをした優しい外交といった消極的な政治でよかったので、民主党政権のような政治でよかった。しかし、国民のメンタリティーががらっと変わった。ふわふわとした理想主義から危機意識に目覚め、今は結果をきちんと出す政治が求められている」と、今の時代を解説する。

日本人が危機意識を共有している中で「やはり強い経済が必要だし、しっかりした安全保障の問題もある。原発問題もある意味、安全保障の問題だ。小泉(純一郎元首相)・細川両氏がそうしたことを全く素通りしてしまって、将来の環境の問題を考えるというのは、国民に向けた説得力があるのか」と、細川・小泉両氏の脱原発主張に疑問を呈した。

それでも細川氏は、安倍政権との主張の違いを打ち出すには「安倍首相の、オリンピックを絶対に成功させるとか、原発は再稼動が必要といった主張に対抗せざるを得ないだろう」とみている。原発の段階的廃止を唱えているとしたら、安倍政権との違いがわからなくなる、とした。

<反原発・オリンピックへの消極姿勢は、強い日本に逆行>

武者氏は、現実をみると「全ての原発が停止したことにより、貿易赤字は年間10兆円となり、ほぼ消費税分に当たる規模に上る膨大なコストがかかっている」と指摘。

オリンピック招致についても「なぜ当初都民が反対し、2度目は一転して歓迎したか、それは国民が求心力を求めるようになったからであり、オリンピックというのはそもそも求心力の象徴。オリンピックを起点にもう一度日本を作り直したいと、国民の期待が変わった。このまま細々とやっていけばいいという発想は、全く時代に合わないのは明らかだ」と見ている。

このため「細川氏は都民の支持が得られないだろう。立候補表明から今だに何もきちんと表明していないところを見ると、すでに嫌気が差しているのではないか」とも見ている。

細川氏の側近だった田中秀征氏が、今回の細川氏立候補にどのような役割を担っているのか──。田中氏をよく知る武者氏は「田中氏は、決して裏で政治的な意図をもって動くような人物ではない」と明言。「田中氏の念頭にあるのは、安倍首相の歴史認識修正路線への懸念、安倍首相の軟弱な規制改革姿勢への不満だろう」との見方を示した。

<細川氏当選なら、国政レベルで安倍政権対抗軸も>

一方で舛添氏については「敵前逃亡したような細川氏とは異なり、厚生労働相を務め、現実の政治をデリバーするという実績を見せてきた。自民党を離党したことからみても、リスクをとって政策を実現すると期待できるほか、しがらみもないだろう」と見ている。「オリンピックを契機に東京を強くしてほしいとの期待は、舛添氏の方にあるだろう」とした。

東京が国家戦略特区の有望な候補とされていることについて「彼は賢い政治家。国民がそれを期待しているなら、猪瀬(直樹)知事の方針を引き続いてやるだろう」と見通している。

こうした見方を前提にすれば「細川氏が都民の支持を得ることは考えられない」としながらも、当選した場合については「鳩山(由紀夫)元首相が日米安保体制を根底から覆したように、一体何が起こるかわからないような事態に陥るかもしれない」といったリスクがあるとした。

安倍政権についても影響が及ぶとし「国政レベルで、野党による自民党への対抗軸ができるだろう。細川氏を中心として野合が起きるだろう。直ちに国政に影響することはないだろうが、場合によっては沖縄基地問題をはじめとして、色々な動きが出かねない。安倍政権がやろうとしたことに大きなブレーキがかかる可能性がある」とみている。

(インタビュアー:中川泉)

(編集:田巻一彦)

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