京丹後市「上限200円運賃」は地方交通の革命か 補助金をうまく使えば利用拡大が期待できる

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これ以外にも京丹後市には革新的な交通サービスがある。例えばタクシーが撤退した旧網野・久美浜町には2015年から、電気自動車関連の補助金制度を活用した「EV乗合タクシー」が走っている。タクシーと銘打ちながら移動のみならず、小荷物輸送、買い物代行、見守り代行、図書館代行、病院予約代行も行っており、全国初の事例となった。

電気自動車関連の補助金制度を活用した「EV乗合タクシー」(筆者撮影)

一方旧丹後町では、NPO法人「気張る!ふるさと丹後町」が2014年からデマンドバスを運行しているだけでなく、2年後には自家用有償旅客運送制度を活用し、公共交通空白地有償運送としてわが国で初めてアメリカのウーバー・テクノロジーズのアプリを活用した「ささえ合い交通」も導入している。

現地取材でわかったのは、次々と画期的な交通サービスを実現できた理由のひとつに、京丹後市や京都府に「交通の目利き」がいたことである。自治体が各種補助金の内容を理解し、ウーバーのような新しいサービスの存在を熟知していたことから、大胆かつ柔軟な交通改革を推進できたようだ。

補助金の使い方に一石

ただし課題がないわけではない。いまや東京23区でも露呈しているバスの運転士不足はこの地域も同様であり、2018年11月には丹海バスが、宮津市内の6路線の維持が困難という方針を示した。路線廃止や減便が現実となれば、利用者離れにつながる可能性もある。

また京都丹後鉄道では、高齢者の利用者が急増している割には、市内各駅の乗降者数は横ばいとなっている。さらに昨年は西日本豪雨の影響で約2カ月間、運転見合わせやルート変更を強いられており、収入減少につながった。

5月に運行を開始した新型車両「KTR300形」、7月より鉄道沿線地域に提供予定のスマートフォン向けWILLERS MaaSアプリなどがどの程度の活性策になるかは未知数だ。

多くの交通には補助金が使われているが、筆者も何度か報告してきたように、欧米の都市交通は税金や補助金主体での運営が一般的だ。京丹後市も補助金をうまく活用したからこそ次々に改革を打ち出せたわけで、運賃収入だけを取り上げて黒字赤字と騒ぐのは、そろそろ幕引きにしてもらいたいものである。

森口 将之 モビリティジャーナリスト

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もりぐち まさゆき / Masayuki Moriguchi

1962年生まれ。モビリティジャーナリスト。移動や都市という視点から自動車や公共交通を取材。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。著書に『富山から拡がる交通革命』(交通新聞社新書)。

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