地銀支店長が後継難の酒造会社に転身した事情 地銀「人材紹介・育成」は新しい事業価値に

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諸々の施策が成功し、再建は軌道に乗りつつある。2018年3月期の売上高は21億円。前年比5200万円の増収となった。国外に販路を拡大し、2018年5月にはアメリカ・ロサンゼルスで開催された「国際スピリッツ・コンペティション」で同社の「里の曙ゴールド」が焼酎部門最高金賞を受賞。その後の輸出拡大に弾みをつけ、今春にも独ベルリン、仏パリでの鑑評会でも「金賞」受賞が続いている。

中村社長による数々の施策は、情熱を持った銀行員が事業承継に悩む取引先に身を投じ、銀行時代に培った企業の観察眼と強力なリーダーシップを生かして経営改善を成し遂げた好事例ということができる。

他にも銀行員が取引先の企業に経営者として、事業承継した例がある。群馬県中之条町の沢渡温泉にある老舗「まるほん旅館」の福田智社長は、元々群馬銀行で同社を担当していた営業マンだ。

後継者がおらず廃業も考えていると聞き、手を尽くして承継先を探したが、規約上、源泉の利用権は相続人以外に承継できないことがわかった。そこで自ら後継者になることを申し出て、先代の養子になり事業を引き継いでいる。

後継者の不在、地方で深刻な事業承継問題

中小企業において後継者難は深刻の度を深めている。東京商工リサーチによれば、2018年に全国で休廃業・解散した企業は4万6724件と前年を14.2%上回った。休廃業・解散した企業の代表者の54.7%が70代以上であり、後継者不在のまま社長が高齢化し休廃業を余儀なくされている実態が見てとれる。

また、社長の年齢は地方でより高い。帝国データバンクが調べたところによれば、社長の平均年齢が最も高いのは同率で岩手県、秋田県だった。地域経済に占める中小企業のウェイトを考えれば、事業承継は地域活性化の課題でもある。

事例で紹介した社長の前職の地方銀行の経営環境に目を転じると、こちらもやはり課題が多い。2019年3月期決算をみると、上場地銀78行のうち約7割で減益となった。確実視される人口減少は地方においてより深刻だ。高齢化もあいまって経済活動の縮小が見込まれる中、融資拡大策を主軸とした従来型の経営戦略に現実味がなくなってきている。

代わりに挙げられるのが取引先支援のビジネスモデルだ。信用力や担保がない先に対しても、銀行員の目利き力で事業の将来性を見出すことで資金を提供する。経営アドバイスを提供しながら企業価値向上につなげ、銀行の利益とともに地域の共通価値を創造していこうとする考え方だ。

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