欧米でいきなり「環境」が重要政策になった事情 なぜ選挙戦を左右するほどになったのか

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これまでバイデン氏は、「中国とは競争にならない」と発言したと伝えられるなど、対中政策の手ぬるさが批判されてきた。今回の公約からは、環境政策を手掛かりに、対中政策で反転攻勢に出ようとするバイデン氏の思惑がうかがえる。

もちろん、民主党の予備選挙で盛り上がったからといって、アメリカの環境政策が大きく変わるとは限らない。環境政策は、党派によって大きく主張が分かれる論点である。たとえ2020年の大統領選挙で民主党の大統領が誕生したとしても、議会で共和党の賛同が得られない限り、グリーン・ニューディールを推進するような法律を成立させることは難しい。

トランプ氏は「社会主義」と批判

また、それ以前の問題として、大統領選挙の段階において環境政策を軸とした論法が、民主党の命取りとなる可能性がある。その実現に巨額な財源が必要であるだけでなく、左派的な政策を結集させる論点になっている以上、「大きな政府」に対する反感を呼び起こしやすいのは間違いない。実際にトランプ大統領は、グリーン・ニューディールを「社会主義」と批判している。

しかし、共和党も油断は禁物である。安全保障や健全財政など、伝統的に共和党が重視してきた政策分野と、環境問題の結びつきが強まっているからだ。地球温暖化問題は、基地の立地や航路の変更を強いられる点などから、安全保障上のリスクとして位置づけられていると同時に、災害対策費用の増加につながる点で、財政上のリスクとしても意識され始めている。

それだけではない。アメリカとヨーロッパに共通した特徴として、環境問題への関心の高まりは、若い世代に牽引されている。アメリカでは、全体としては環境問題への関心が低い共和党支持者ですら、1980年代以降に生まれたミレニアル世代は、支持者の主力であるベビー・ブーマー世代(1946~1964年生まれ)よりも、「現在の温暖化対策は不十分」と考える割合が高い。

環境問題への関心の高まりは、左派にとっては、既存の政治に対する批判を取り込み、若い世代を惹きつける格好の機会になりえる一方で、右派にとっては、世代交代に取り残されないために、足掛かりを模索しなければならない試練となる。

かねてアメリカでは、共和党の支持者に占める高齢者の比率が着実に高まっている。次世代の関心事項を取り込めるかどうかは、目先の選挙への影響を超えた意味合いを持つ。共和党としても、「大きな政府」に頼らない切り口で、右派なりの環境政策を語る知恵が求められている。

安井 明彦 みずほリサーチ&テクノロジーズ 調査部長

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やすい あきひこ / Akihiko Yasui

1991年富士総合研究所(現みずほ総合研究所)入社、在米日本大使館専門調査員、みずほ総合研究所ニューヨーク事務所長、同政策調査部長等を経て、現職。政策・政治を中心に、一貫してアメリカを担当。著書に『アメリカ 選択肢なき選択』(日本経済新聞出版社)などがある。

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