「わたし、定時で帰ります」で目覚めよ、おっさん 原作者が問う、昭和を引きずる企業への忠告
つい最近、書いた短編の舞台はコンサルティング業界なんですが、業界の背景や全体像を把握するのに、御社の『業界地図』を使いました(笑)。あとビジネス誌の特集記事も参考にしています。
実は『業界地図』も久しぶりに買って(笑)。ようやくTwitterにも「この本読んでます」と言えるようになってきたところなんですよ。別に誰かに「読むな」と言われたわけじゃないんですけど。
――自分の中のイメージで自主規制をかけておられたんですか。
なんかやっぱり、憧れの作家を演じよう、としていたんだと思います。お金のことばかり考える、ガツガツした人ではいけないと……。
――必ずしも企業の話がお金にガツガツしたイメージになるわけではないと思いますが。
でも、一般企業においては、お金を儲けることが最大の善じゃないですか。それ以外の目的ってないですよね。
本の世界には売れていなくともすばらしい作品がいっぱいあります。私もどちらかといえば、そっちの世界の作家になりたいという夢がありました。死後に評価される、憧れちゃうんですよね(笑)。今、文芸の世界でも、売れる本、売れない本みたいな論争になっていますが、売れる本がどんどん出て業界にお金が回れば、お金にならないけど後世に残るような本を育てることもできると思うんです。
私はどちらかといえば、これまで憧れてきた芸術を創る人間ではなく、もともとあるサラリーマンマインドで、より多くの人に喜んでもらえる作品を作っていこうと。書店さんも出版社さんも潤って、これからの作家さんが育つ環境に貢献できるようになれればいいな、と思っているんです。これを言うと、自分にすごいプレッシャーがかかるんですけど(笑)。
やっとこう、自分の中にある、売れないけどすごい作家になりたい、という憧れを捨てることができた。自分が本来、向いていると思えるほうに行けたな、と思っています。売れ筋とわかっていても、ガツンと攻めることへの、ウケるネタを書くことへの抵抗がすごくあったんです。誰も書いていないようなテーマに挑戦すべきと思い込んでいた。
若い人がついてこなかったらおしまい
今回の『わたし、定時~』は、今の世の中はこんなことが問題になっているから、こういう設定にしてこんな読者に届けたい、と初めて意識して書きました。書き上げたとき、私のイメージが明確だったせいか、編集さんも装丁に力を入れてくださったし、営業の方や宣伝の方も、サラリーマンに届くように売り込んでくださった。そのおかげもあってビジネス書の近くに置かれることが多いんです。私自身、最初からそうなるといいなと思っていたんですが、そのもくろみが当たった感じです。
実際、この本が世に出てみたら、文芸関係の取材より、新聞記者や経済誌のほうからの引き合いが強く。これまでも、働き方改革の記事はいくつも書いてきたけど、そろそろネタ切れだと。柔らかいネタで、新たな切り口で何かないかと探しているときに、この本が出たので取り上げてくださっているようです。
――『わたし、定時~』の中には、主人公の「定時で帰るは勇気のしるし」という言葉が出てきますね。
仕事は長い時間を与えられたほうが圧倒的に楽なんです。いかに時間内に仕事を終わらせるか考えなくて済みますし。集中もしなくていい。
私は今、保育園のお迎えがあるので午後6時には仕事を切り上げていますが、自分の働き方を変えたのは、過労で本当につらい思いをしたことがいちばん大きい。当時の苦しさと死ぬのと、どっちを選ぶと言われたら、もう1回、同じ目に遭うのなら死ぬほうを選ぶというくらい、つらかった。本当に心が壊れた1~2年間は、生物にとって最も恐ろしい“死”が楽に思えるくらい、つらかった。
今の若い人は長時間労働を嫌いますよね。若い人がついてこなかったら、会社はおしまいじゃないですか。そこはみんなで知恵を出し合わないと。頭を使わないといけない時代になってきたんだと思います。
私自身は“絶賛長時間労働派”なので、自らに鎖をかけて仕事をしています。『わたし、定時で帰ります。ハイパー』(続編、新潮社)で、主人公が働く会社の人事の女性に「定時というのは経営者を縛る鎖だ」と言わせたのですが、社員が長時間労働をいとわなくなると、上層部は頭を使わなくなる。上の人たちを鍛えるためだと思って、社長のためだと思って、定時に帰るのがいいんじゃないでしょうか。
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