新幹線N700S「時速360km」が導く鉄道新時代 高速鉄道は再びスピード競争の時代に?

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今回の速度向上に際して、JR東海は線路や架線も念入りにチェックするなど、車両だけでなく総力戦で挑んだ。そもそもJR東海が海外に売り込みたいのは新幹線という車両ではなく、安全、安定輸送を実現する「新幹線システム」というハード、ソフトを含む総体である。

そこには新幹線の安全・安定輸送を支える人々の訓練も含まれる。

5月23日の深夜、走行中の新幹線で車両故障が起きたことを想定し、異常時の対応訓練が東京―品川間の線路上で行われた。深夜の時間帯における線路上での異常時対応訓練は、毎年テーマを決めて実施されている。昨年はトンネル内に列車が止まって運転再開ができず、隣接線路に横付けした救援列車に乗客を誘導するというもの。健常者だけでなく、車イスを利用する乗客もいるという想定での訓練だった。

歴史は夜作られる?

今年の異常時対応訓練は外国人客への対応もテーマだった(撮影:尾形文繁)

今回のテーマの1つは外国人対応だ。最近の訪日客の急増により、東海道新幹線も外国人旅行者の利用は多い。そこで、訓練には外国人の男女1人ずつが乗客役として参加。突然停車した車内の外国人乗客にパーサーが英語で運行状況を説明するとともに、座席背面テーブルのQRコードをスマホで読み取ることによって、多言語対応の運行情報ウェブサイトにアクセスできることも説明した。

ただ、実際の新幹線の列車には2人どころか、何十人もの外国人乗客が乗り合わせることが考えられる。JR東海・新幹線鉄道事業本部の辻村厚運輸営業部長は、「今回は外国人が2人だったのでじっくりご案内できたが、多くの外国人乗客がいたときは1対1ではなく外国人全体に対する対応になる。また、乗務員がすべてを英語で対応することは難しい。スマホの翻訳アプリも活用しながら対応したい」と話す。

歴史は夜作られる――。もともとは映画のタイトルだが、現在は「歴史上の出来事は人が寝ている間に進んでいることが多い」という意味の格言として使われることも多い。5月23日の異常時対応訓練、そして6月6日の深夜に行われた速度向上試験も、後で振り返ってみれば、「あの日が歴史に残る日だった」ということになるかもしれない。

大坂 直樹 東洋経済 記者

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おおさか なおき / Naoki Osaka

1963年函館生まれ埼玉育ち。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。生命保険会社の国際部やブリュッセル駐在の後、2000年東洋経済新報社入社。週刊東洋経済副編集長、会社四季報副編集長を経て東洋経済オンライン「鉄道最前線」を立ち上げる。製造業から小売業まで幅広い取材経験を基に現在は鉄道業界の記事を積極的に執筆。JR全線完乗。日本証券アナリスト協会検定会員。国際公認投資アナリスト。東京五輪・パラにボランティア参加。プレスチームの一員として国内外の報道対応に奔走したのは貴重な経験。

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