新幹線N700S「時速360km」が導く鉄道新時代 高速鉄道は再びスピード競争の時代に?
すでに新幹線方式で運行している台湾の高速鉄道は近い将来の車両増備や車両更新が予定されており、N700Sが採用される可能性は高いと見られる。ただ、営業最高速度は時速300kmである。
つまり、日本においても、N700Sの導入が想定される海外の路線においても、時速360km運転が検討されている路線はない。それでも時速360kmの速度向上試験に踏み切ったのはなぜだろうか。JR東海・新幹線鉄道事業本部の上野雅之副本部長は、「国内外にN700Sの高い走行性能を示す」と、速度向上試験の狙いについて話す。その発言の裏側に、JR東海の本当の狙いが見えてくる。
環境性能と速さの両立
近年の高速鉄道車両の開発はスピードアップよりも省エネや環境性能の向上に比重が置かれている。ドイツ鉄道が導入した最新型の高速車両「ICE4」は最高速度が時速250kmにすぎない。だが、その代わりに軽量化による省エネ性能の向上に加え、欧州の主要電化方式すべてに対応させるなど汎用性を高めた。
新たな高速鉄道車両の開発に際し、近年の環境意識の高まりを無視してスピード競争に回帰することはもはやないだろう。しかし、省エネ性能や環境性能が高く、そのうえでスピードアップが実現する車両なら、どの鉄道会社も欲しいはずだ。
N700SはN700Aよりも消費電力を7%減らし、先頭形状の改良でトンネル突入時の騒音もさらに低減させた。また、16両編成を8両や12両などに柔軟に変更できるという強みを持つ。
とはいえ、最高速度だけはN700Aと同じだった。だが、今回の速度向上試験で最高速度もN700Aを上回った。当初のN700Sの開発はスピードよりも省エネや環境性能を重視する世界の高速鉄道開発と同じ流れにあると思われていたが、時速360km運転に成功したことが、世界の鉄道関係者を驚かせるかもしれない。
今回のN700Sの時速360km運転が、世界の高速鉄道のスピード競争に再び火をつけるのか。この質問に上野氏は「それはないと思う」と否定したが、一方で、「N700Sは現在考えられる最高の技術の結晶と自負している」と語る。
JR東日本も東北新幹線の営業最高時速360㎞を見据えた試験車両「ALFA-X(アルファエックス)」の走行を開始した。アルファエックスも速度だけでなく、環境性能や安全性能のレベルアップを目指す。こうした日本の動きに触発されて、新次元のスピード競争が再び始まる可能性もある。
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