「でも、一度の公演で300万円もかかる日本舞踊が趣味の女性で、とてもじゃないけど一緒に生活できないと思って諦めました。その次に結婚の話が出た女性とは、自然とお金の話になって……。自分の中で親がロールモデルなんです。先ほど言ったとおり、実家は裕福で、父親はかなり稼いでいました。自分も、せめて年収500万~600万ないといけないのではないかと、結婚を躊躇してしまうんです」
しかし、年収が500万円以下でも結婚している男性は多くいる。幸雄さんのプライドが結婚へのハードルを上げている可能性もある。
「プライド……。どうなんでしょうか。多分、高いんだと思います。でも、お金の基準を作って未婚である理由にしている感じはします。同年代の既婚者の友人からは『40歳を過ぎて結婚していないということは、お前に欠陥があるんだ』と言われました」
そして、幸雄さんは少し意外な理由を続けた。
「離婚をしたくないんです。結婚をしたら、離婚をする可能性がある。地方は離婚をすると後ろ指をさされるような雰囲気がまだ残っているので、周りの人より結婚に対して慎重になっているのかもしれません」
出会ったらいつかは別れが訪れる。何だか、幸雄さんが夢中になった1990年代のJ-POPにありそうな歌詞だが、彼は大真面目に語っていた。合コンにも行ったことがない。今まで交際してきた女性は学生時代の友達が多く、合コンやマッチングアプリのような、セッティングされた出会いが苦手だという。
震災をきっかけに福祉の道へ
30代後半までフリーの音楽家を続けていた幸雄さんだが、転機が訪れる。それが、2011年3月に起こった東日本大震災だ。あの震災直後、CMが自粛されたり、数々のイベントが「不謹慎だ」という理由で中止になったりした。日本全体が暗いスモッグに覆われたような、独特なねばついた雰囲気だった。
「僕はいちいち物事に慎重だし、チャンスに飛び込んでいけない、どちらかというとネガティブな人間だと思っていたのですが、あの震災直後、自分以上に闇落ちしている人がたくさんいて、ネガティブなはずの自分がなぜか励ます側に回っていたんです。ならば、自分が動いてやれることをやろうと思ったんです」
震災をきっかけに、幸雄さんは本格的に福祉の勉強を始め、社会福祉士の資格を取得。保育事業の現場に就職した。それまでも、子どもに音楽を教える仕事をした経験があったため、子どもの扱いはある程度自信があった。
「ゆとり世代やさとり世代が嫌いなんです。もちろん全員じゃないですけど、中には『将来は公務員になりたい』と語る子どもがいるんでしょ? そうじゃなくて、もっと夢を持とうよ、世の中こんなに楽しいんだよと伝えたいんです」
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