北朝鮮の「食糧不足」はどこまで深刻なのか 人口の4割、1100万人の食糧が十分でない
WFP調査と同じ時期に北朝鮮を訪問した日本人や在日コリアン、中国人の話を総合すると、「平壌はこの数年と変わらない状況だが、商店やレストランを訪れる市民の数がどことなく減ったような印象」「外国人が行くようなレストランなどの客数は減ったが、地元市民が行く相対的に低価格な一般的な食堂には客が多かった」「コメなどの物価は1キログラム4000~5000(北朝鮮)ウォンと、この4~5年変わりなく、為替レートも1ドル=8000(北朝鮮)ウォンとこれも変わらない」という。
ただ、「地方、とくに鉱山がある地域はモノも食べ物も足りない」との証言もある。餓死者が出るほど厳しくはないが、地方住民の食糧確保は厳しくなっているのではないか、ということだ。
食糧不足はこの10年でもっとも深刻?
国連やアメリカが主導する経済制裁は、食糧などの人道的な分野での北朝鮮との取引はそれほど制限していない。中国やロシアからも食糧などの物資は入っている。それでも、「2カ月ほどの期間、北朝鮮の住民はひもじい思いをするかもしれない」と警鐘を鳴らすのは、北朝鮮農業の専門家で、韓国の民間シンクタンク・GS&Jインスティチュートのクオン・テジン北朝鮮東北アジア研究所所長だ。
韓国『中央日報』(2019年5月24日付)とのインタビューでクオン所長は、「私の計算では、今年の北朝鮮の食糧不足量は90万~100万トン。やはりこの10年でもっとも深刻な状況」であると指摘する。
北朝鮮はこの10年間は餓死者が発生しておらず、食糧不足が慢性的な国家だったが、統計に出てこない非公式な生産量や輸入もあり、市場を通じて食糧はそれなりに流通していた。クオン所長は「40万~50万トンの不足なら、なんとか耐えることができた」と説明する。ただ「(今年の)50万トンの不足分について対策がない」という。北朝鮮住民が口にする食料が1日1万トンとすれば、2カ月弱分の食糧がないという計算になるとし、(1990年代の)「苦難の行軍」当時ほどではないが、餓死者が出る可能性があると警鐘を鳴らす。
仮に食料が足りないなら食料価格も上昇するはずだが、現状では、コメ価格をはじめ、それほど上昇していない。むしろ4~5月にかけて価格は低下してさえいる。これについてクオン所長は「供給増による価格低下ではなく、(有効)需要が減少して価格が下がったものと思われる。北朝鮮への経済制裁の影響で経済難が深まり、コメを食べる人が減ったということ」と説明する。例えば、かつては中国などに鉱物資源を輸出することで鉱山労働者の収入は多かったが、経済制裁の影響で輸出が厳しくなり、収入が激減したという。
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