立川志らく「弟子降格」批判では見えない本質 外野から「パワハラ」とくさすのは無粋である

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志らくさんは今から34年前に弟子入りして早い段階で頭角を現し、真打ちに昇進して落語家として名を成したのですが、テレビタレントとしての露出はそれほど多くはありませんでした。志らくさん自身はそのことがずっと心残りだったようです。

最近になってようやく、志らくさんがテレビにもたびたび出るようになってきました。大手芸能事務所のワタナベエンターテインメントに所属したことがひとつの転機になったのですが、時代の空気が志らくさんのような存在を求めていた、ということもあると思います。

立川志らくの魅力

今のテレビで重宝されているのは、無難でもなく的外れでもない、程よいバランスで自分の意見を臆せず言えるタレントです。テレビに出ることを本業としているほとんどのタレントは、自分の芸能人としての立場を守ることを優先してしまうため、どうしてもリスクの高い攻めた発言をすることができません。

その点、志らくさんは落語というライブ活動に軸足を置いているため、テレビ界や芸能界に気兼ねせずに、思ったことを堂々と主張することができます。しかも、そこには師匠直伝のウィットやアイロニーも含まれています。テレビのコメンテーターとしてこれほどふさわしい存在はいません。

しかも、志らくさん自身は談志原理主義者ではありますが、人間としてのたたずまいは談志さんとは違います。談志さんはテレビでは無愛想でとっつきづらい印象を与えますが、志らくさんはどこかおどおどしているような感じで、態度そのものは決して偉そうではありません。でも、過剰に媚びた雰囲気もなく、率直に思ったことを言っている感じが伝わってきます。

個人的には、現役の落語家の中では志らくさんの落語が格別に好きです。どこが好きかというと、古典落語に現代の感覚を取り入れて、気軽に楽しめるものにしているところです。しかも、談志さん譲りの理論家肌で落語の本質を捉えているため、噺(はなし)の核心部分だけを抽出して、それ以外はばっさり切るような大胆な演出上の工夫もあって、テンポがよくて見やすいのです。

志らくさんがテレビの人気者になることで、彼の落語の面白さを知る人が増えるのは無条件で喜ばしいことだと思います。志らくさんの発言について「あれはおかしい」「あれは間違っている」などと思っている方は、一度でいいから彼の落語に生で触れてみてほしいです。

ラリー遠田 作家・ライター、お笑い評論家

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らりーとおだ / Larry Tooda

主にお笑いに関する評論、執筆、インタビュー取材、コメント提供、講演、イベント企画・出演などを手がける。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり〈ポスト平成〉のテレビバラエティ論』(イースト新書)など著書多数。

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