日本企業に足りない「リーダー育成」3つの視点

偶然リーダーが現れるような時代ではない

私がかつて日立のアメリカ法人で勤務していたときのことです。原子力営業部長に、アメリカ法人での営業経験をさせたいという話が日本の本社からありました。ところが、アメリカ法人が手がけるのは原子力とはまったく畑違いのハードディスク。しかも、原子力ビジネスのリーダー候補として将来を嘱望されていた彼は、アメリカでの2年間の勤務後、再び原子力事業部に戻るというのです。

何のためにハードディスクの営業経験を積ませたいのかが、不明瞭でした。結局、海外勤務ならばむしろ原子力の海外営業の経験が必要だということで、この話はお断りしました。リーダーシップを伸張させるためには何が必要か、という視点が抜け落ちた例です。

最良の育成方法は個人によって違う

ジョブ・ローテーションやタフアサインメント、海外勤務、異職能ローテーションなどは、確かに効果的な人材育成方法です。ただ、注意すべきは、最良の方法は育成対象によって異なるということです。ジョブ・ローテーションが必要な人材もいれば、海外勤務が必要な人材もいるはずで、一律に要件をチェックボックス化できるものではありません。その人材にとって、どんな経験がリーダーとなる下支えになるのか、何が最も有効な施策であるのかを見つけ出すことが必要です。

リーダーを目指す人材自身の「育ちたい」という思いも重要です。実はこれがいちばん大切ではないかと思っています。これなしには、いかなる施策も効果を発揮しないと思います。

「A man may lead a horse to the water but he cannot make him drink」ということわざがあります。馬を水辺に連れて行くことはできても、水を飲ませることはできない、という意味で、第三者がいくら気をもんでみても本人にその気がなければどうしようもない、というときに使われます。人材育成もまさにその通りです。

以前、リーダー育成講座を教えていた時、受講者の1人が「上長に言われて参加しています」と発言して、あぜんとしたことがあります。研修投資をドブに捨てたようなものだと感じた瞬間です。

もちろん、上長がきちんと動機づけをすることも必要ですが、それ以上に必要なのは本人への「動機づけ」ではなく本人の「覚悟」でしょう。そして、そういう人材を選抜することが投資対効果という点ではとても重要です。

人は何によって育つのかという議論の中で「70:20:10の法則」と言われるものがあります。人材育成には、「70%が仕事・業務、20%が上長などからの薫陶、10%が研修やトレーニング」が有効だとするものです。

「仕事・業務」とは、業務を通じて得た経験・知識・ノウハウなどをいい、「薫陶」とは、上長などから受けた教えや教訓やアドバイスをいいます。また「研修やトレーニング」とは、研修などから得た新たな学びといったものでしょう。

仕事だけ一生懸命やっていれば人は育つかというとそうではないし、経験のない仕事に対して薫陶と研修を行っても人は育たない。私流に解釈すると3つの要素は密接不可分であり、バランスが取れてこそ生きる法則だと思います。

リーダーシップを鍛えるためにも同じ法則が当てはまるでしょう。「仕事・業務」としてタフな人事配置やアサインメントを行うことも1つの方法です。「薫陶」ということではリーダーを創るのはリーダーしかいないということを肝に命じて「リーダーがリーダーを教える」文化を育て実践することが大事なことだと思います。「研修」ということではビジネス計画にのっとった人材育成体系を作り、展開して人材やリーダーシップの強化の機会を提供することです。

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