頬被りの高血圧学会と専門誌は許せない ノバルティスの不正を見抜いた桑島巖医師に聞く

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――今回の不祥事の発覚で、学会に自浄作用は働いたのでしょうか。

いいかげんな試験の結果に基づく製薬会社による大規模なPR活動によって臨床現場の医師が間違った認識を植えつけられた。そうした中でディオバンの処方は拡大していった。ノバルティスは『日経メディカル』などの専門誌の企画広告などを通じて大々的に臨床試験の結果をPRし、堀内正嗣・日本高血圧学会理事長や理事たち、ガイドライン作成委員の専門家たちがディオバンを用いた臨床試験を手放しでほめたたえた。

日経メディカルに掲載された広告の数々(撮影:尾形文繁)

今回、一連の臨床試験のデータに根本的な誤りがあり、論文そのものの撤回に追い込まれたにもかかわらず、日本高血圧学会幹部はコメントすら出していない。ましてや謝罪も何もない。広告を掲載し続けた専門誌も頬被りを決め込んでいる。

学会の誰も責任を取らない

――大阪大学大学院の森下竜一教授(日本高血圧学会理事)は、ノバルティス提供による日経メディカル11年1月号の企画広告で「『JIKEI HEART Study』はちょうど改訂中だった高血圧治療ガイドライン2009に大きな影響を与えたと思います」と語っています。

処方の拡大につながったという点で、ガイドラインに掲載された影響は大きい。ディオバンなどのアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)は「降圧を超えた価値」を大規模臨床試験を通じてアピールした。しかし、臨床試験の結果はうそで塗り固めたものであり、そのような価値は実際にはなかった。血圧を下げる効果についてもカルシウム拮抗薬のほうが勝っており、効果の持続性もあるうえ、薬価も安い。その意味で、医学界はこの10年間、製薬メーカーにだまされ続けてきたと言える。にもかかわらず、誰も責任を取らず、だんまりを決め込んでいる。

――今回の不祥事によって、患者の受けた不利益についてはどうお考えですか。

私は長年、降圧薬の効果について研究を続けてきた。その私に言わせると、ディオバンよりも安くて効果に持続性のある薬があるのに、ディオバンを処方されたということは、患者が金銭的に損をした可能性が高いうえ、血圧が十分に下がらないことで脳卒中や心筋梗塞を増やした可能性すらあると思う。薬を売るだけ売って、あとは野となれ山となれでは、あまりにも無責任だ。

岡田 広行 東洋経済 解説部コラムニスト

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おかだ ひろゆき / Hiroyuki Okada

1966年10月生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。1990年、東洋経済新報社入社。産業部、『会社四季報』編集部、『週刊東洋経済』編集部、企業情報部などを経て、現在、解説部コラムニスト。電力・ガス業界を担当し、エネルギー・環境問題について執筆するほか、2011年3月の東日本大震災発生以来、被災地の取材も続けている。著書に『被災弱者』(岩波新書)

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