「炎上CM」を広告業界がやめられない明快な理由 「怒り」を表明する女性がなぜ増えているのか

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2018年12月、イギリスのASA(英国広告基準局)とCAP(広告実践委員会)は、有害なジェンダーステレオタイプを生む表現を禁ずると発表した。世界最大のクリエーティブアワードであるカンヌ広告祭では、ジェンダー・イコーリティ(男女共同参画)を進める表現が、ここ数年いくつも受賞している。

日本でも東京大学の入学式の祝辞で、社会学者の上野千鶴子氏がジェンダー不平等な日本の状況を訴え、東大生を激励したことが大きな話題になった。それは東京大学の明快なベクトルを感じさせるものであり、ある種鮮やかな広告として機能していた。

時代は少しずつ変わっている。そんななか、広告やメディアの送り手はどうすればいいのか。炎上を無視するのか、戦うのか、当たり障りのない表現を模索するのか、それともジェンダー意識をつねにアップデートしながら、多様な社会に寄り添える表現を探すのか。

広告業界が「目指すべき姿」

もちろん、「絶対に炎上しない広告」をつくるなんて不可能だ。制作過程で見抜くことの難しさは前述したが、たとえジェンダー意識の高い広告主や制作者が携わった場合でも、限られた秒数やスペースの中の表現により「正直びっくりしている」という行き違いは、きっとこれからも起こる。

けれど、それでも学びをやめてはいけないと思う。広告やメディアの送り手がこの問題と向き合わなかったとしたら、いったい誰が向き合うのか。

そのうえで、私たちが最終的に目指すのは「炎上しない表現」ではなく、たとえ炎上しても揺るがない「表現への覚悟」だと思う。意志を持って考え、制作したメッセージであれば、たとえ炎上しても、しっかり説明したうえで、堂々と賛否を問えばいい。失敗したと思ったら、誠意を持って謝ればいい。

炎上を恐れるのではなく、耐性をつけていく。ごまかすのではなく、正直に対応する。すべてが見透かされてしまう時代、それがこれからの炎上社会との付き合い方ではないだろうか。

こやま 淳子 コピーライター・クリエイティブディレクター

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こやま じゅんこ / Junko Koyama

早稲田大学卒業後コピーライターへ。博報堂などを経て2010年に独立。さまざまな企業や商品のブランディングのほか、コピーライター養成講座講師、広告賞審査員なども手がける。最近の仕事は、日経DUAL・日経ARIA・日経doorsブランドムービー、ロッテ「愛のカタチは、義理と本命だけじゃない。」、プラン・ジャパン「13歳で結婚。14歳で出産。恋は、まだ知らない。」、LION「hadakara(ネーミング)」、ワコール、NHK、今治市など。著書に『コピーライティングとアイデアの発想法』『choo choo 日和』『しあわせまでの深呼吸。』、山田五郎氏との共著『ヘンタイ美術館』ほか。公式サイト

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