「炎上CM」を広告業界がやめられない明快な理由 「怒り」を表明する女性がなぜ増えているのか
広告制作を担うコピーライターであり、1人の女性でもある私は、いつもこの問題の難しさにうなり、そしてその考察に取りつかれる。「正しくて文句の言えない表現」と、「本当に人の心を動かす表現」は違う。
しかしその表現が、私たち女性を抑圧し、生きにくくするものだとしたら。そんな分裂する思いの中で、けれど目をそらさずに、制作者の立場から考えてみたい。
なぜ広告の送り手は、同じような炎上表現を繰り返してしまうのか。
「炎上」と「感動」は紙一重
そもそも人の興味を引く表現と、炎上しそうな表現というのは、近しいところに存在することが多いのではないだろうか。心がざわざわする表現は、ちょっとした加減で、感動にも炎上にもなりうる。
例えば制作者の間では、時折どこか魅力のある表現を、あからさまな性的要素はなくても、「そそる」「エロい」と褒めたりする(私の尊敬するあるコピーライターは、「往年の名作コピー『触ってごらん、ウールだよ。』はエロい。エロいから人の心に残るんだ」と言っていた)。
理屈っぽく説得するような表現よりも、人間の根源的な欲望を描いたり、生理的な感覚を刺激したりするような表現のほうが、人の心を動かせるという考え方だ。
また、ジェンダー炎上でよく「やってはいけない」とされるのが「(男女の役割などを)決めつける」ことだとされるが、一方で人は「決めつけ表現」が大好きだ。
「B型はマイペース」「大阪のおばちゃんは飴ちゃんを持っている」「埼玉県民は山田うどんを全国区だと思っている」など、100%そうだとは言い切れないことを言い切るからこそ、表現に強さが出て面白くなる。
広告コピーにも「男は黙ってサッポロビール。」「亭主元気で留守がいい。」など、決めつけ文体の名作コピーはいくらでもある。
表現の面白さや強さを模索する中で、行き過ぎたり、踏み外したりすることも当然あるだろう。そもそも創作するという作業において、自らそれを批判の目で見るというのはなかなか難しいものである。
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