「炎上CM」を広告業界がやめられない明快な理由 「怒り」を表明する女性がなぜ増えているのか

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もちろんほかの表現なら許されることも、「広告には言われたくない」「消費者なのに傷つけられたくない」という感情があることは承知していて、どちらかといえば広告制作の現場は、慎重すぎるほど慎重だ。

私の普段の仕事でも、とくに強い表現でなくても、つねに「これ、炎上しないかな?」という会話が飛び交っている。クライアントから心配されたけれど説得して掲出し、とくに問題にならなかったケースも多数ある。

そんな経験を重ねると、臆病すぎてもよくないし、かといって炎上するときはする。炎上を炎上前に見抜くことは、想像以上に難しいのではないか。

だから「炎上した広告制作の現場に実は女性がいた」と聞いても、なんら不思議ではない。男社会の中で意見をねじ伏せられ、あるいは忖度して何も言えなかったのではないか、などとも言われるが、もし意見を求められたとして、自分の感覚が「女性の総意」だと100%言い切れる女性なんているのか。

フェミニストの間でだっていろんな意見があるし、女性でありながら女性差別を肯定する人もいる。私たちは何かと女性代表であるかのように「女性の意見」を求められるが、女性だって本当は多様なのだ。

「怒っていいんだ」と気づいた女性たち

だけど、昭和には炎上しなかったかもしれない表現が、炎上するようになった。それが平成という時代だったとすれば、これは広告制作者には由々しき問題ではある一方で、男女平等を目指したい人々(私もまたその1人だ)にとってはポジティブな話かもしれない。

「日本人は同調圧力好きで、匿名じゃないとモノが言えない」とネガティブな意味合いで言われがちだが、もしもSNSの匿名性がこうした女性の本音を「やっと引き出せた」のだとしたら、悪いことばかりでもない。炎上が起こるたびに女性たちは気づいていくだろう。今まで笑って受け流していたようなことも、内心我慢していたようなことも、「怒っていいんだ」と。

一方で広告を発信する側は、その意思や価値観を問われ続ける。どうして女性だけがキレイでいないといけないんですか? どうして女性だけが育児をしないといけないんですか? どうして女性だけが感情的で陰湿な生き物のように決めつけられるんですか? まさか御社は、そんな世の中でいいと思っているんですか?と。

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