乗らずに歩いて…「鉄道事業者」鞍馬寺の願い 全国で唯一、「御寄進票」が運賃の代わり
鞍馬寺の参拝者も秋の週末は1日3000人を超える。ケーブルカーは毎時7本に増発されるが、1便の乗車が28人と輸送力に限度があり、60分以上待ちが続く。本来の表参道である九十九折参道を歩く人が多くなる。
秋の最大の祭事は、鞍馬寺境内の由岐神社で行われる「鞍馬の火祭り」だ。毎年10月22日夜は、かがり火で鞍馬山一体が赤く染まる。雑踏警備のリスクがあるため、近年、宣伝を差し控えているが、それでも2016年の火祭り輸送は7000人を超え、鞍馬駅発の終電を0時過ぎまで走らせて対応した。
高温多湿な夏は、京都市内の喧噪を避けて、避暑地である鞍馬地区を訪れる人が多くなる。貴船神社付近にある十数軒の料理旅館は貴船川に川床(かわどこ)を設け、観光客に鮎や鱧の京料理を提供する。川縁の気温は市街地より10℃近く低いという。
台風からの復旧、そして鞍馬山の再生を目指して
ただ、2018年9月4日の台風21号で、鞍馬の山は大きな被害を受けた。叡電鞍馬線や鞍馬寺の周囲には無数の倒木が広がり、むき出した大きな地肌が傷跡として残る。
鞍馬線では架線柱24本が倒壊した。線路への倒木は約180本で、除去しても、斜面上にある別な木が流れ込む。地元では「半年以上復旧できないのでは」との噂も流れた。
先行復旧した市原駅のホームに観光客があふれた。京都バスに貴船・鞍馬への振替輸送を頼んだが輸送力が足りず、早期復旧を目指した。
9月27日より貴船口駅までの運転を再開できた。信号設備のない小駅であるため、臨時的に社員が便乗して二ノ瀬駅の信号取扱者と連絡し合うシステムを導入し、折り返し運転が可能となった。
被災から約50日後の10月27日、ようやく叡電は鞍馬駅まで復旧できた。鞍馬寺も、同日にケーブルカーの運転と本殿への参拝者受け入れを再開した。貴船と結ぶ奥の院参道は、今年1月末、ようやく通行が可能となった。
鞍馬線沿いの線路脇には防護ネットが、斜面には木々を支えるワイヤーが張りめぐらされている。鞍馬寺も信徒や地元の協力を得て危険な場所の倒木を取り除いたが、搬出できていない場所が多い。土砂崩れなどのリスクは依然として残っている。
信楽執行は「鞍馬山に、いろいろな木を植えて、多様性のある森を作っていきたい」と語る。今は杉とヒノキが植林されているが、治山や保水という観点ではどうなのか。土壌によって適する樹木は異なる。専門家の話を聞きながら検討を始めている。
鞍馬寺は陰陽道、修験道など山岳宗教の要素を引き継ぎ、宗派や性別、国籍にとらわれない多様性を信仰の理念としてきた。復旧には何十年もかかるだろうが、それでも鞍馬山の森は再生されていくのだろう。そんな未来を思い浮かべながら、帰りは、ケーブルカーでなく、険しい参道をゆっくりと降りていくことにした。山門まで30分の道のりだ。
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