乗らずに歩いて…「鉄道事業者」鞍馬寺の願い 全国で唯一、「御寄進票」が運賃の代わり

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1996年の更新で「牛若号3世」は定員32名に大型化し、線路脇の装置から集電するシステムに切り替えた。当時、運輸局の担当者から「鉄道事業法の枠外で運行してもいいのでは」とアドバイスされたが、「国の厳しい監督があることで安全が保たれる」とケーブルカーの運行を継続した。

2015年5月から1年間ケーブルカーの運行を休止した。持続的な安全運転を保つために大規模改修を始め、道床のコンクリートはすべて撤去された。道床と路盤を一体施工することで過重や振動を分散した。巻上機や電気設備も新調した。冬期の積雪や結露による故障が目立ったため、駅に電源装置を設け、停車中に集電することにした。車内にバッテリーを搭載することで保安装置も強化できた。

雪の鞍馬寺ケーブル山門駅と「牛若号4世」(2018年1月)。標高の高い鞍馬寺は30cm以上の積雪が珍しくない。新型になって運転トラブルは激減した(筆者撮影)

2016年5月に「牛若号4世」が運行を始めた。総工費は5億円超。今回も信徒からの献金に頼る形になったが、みなさん快く応じてくれた。

ただ、信楽香仁貫主は「元気な方は、ケーブルカーに乗らず、本殿まで続く九十九折参道を歩いてほしい」と参拝者に伝えている。鞍馬寺は、鞍馬山の複雑で多様な森林生態系を「共に生かされている命」と表現し、信仰理念の1つとしてきた。豊かな山の「いのち」に触れることで、大自然に生かされていることを体感してもらいたい。そうした貫主の願いと寺の理念が背景にある。

紅葉で色づく11月がピーク

鞍馬観光は近年活況を呈している。京都府統計書によると、叡電の貴船口駅と鞍馬駅の2017年度乗車客数は計66万人で、2002年度比で70%増、2013年度比37%増を記録した。

叡電と京阪HDは鞍馬線の活性化のために設備投資を続けている。2016年からICカードを導入し、利用率は6割程度となった。今春から貴船口駅のリニューアルを始め、2020年春に新駅舎とエレベーター、ホーム拡幅が完成する。JR東海や京都市交通局、観光関係者との連携にも積極的だ。義経つながりで岩手県や三陸鉄道との提携もしている。

鞍馬観光のピークは、山々が紅葉で覆われる秋になる。叡電運輸課の中西喜芳課長によると、2018年11月の3連休は、出町柳駅の乗車客数が連日2万人を超えた。通常の倍で、鞍馬地区、そして八瀬や修学院へ向かう観光客でごった返した。鞍馬行きを13分間隔に増発して対応するが、10~11時台に乗車待ちが発生することもある。

秋の鞍馬線の魅力は、「もみじのトンネル」だ。新緑の時と同様、市原―二ノ瀬間で徐行運転をするが、こちらは20年以上の歴史がある。

夕方からの「もみじのトンネル」でのライトアップも人気だ。貴船神社の参道と料理旅館街も優しい灯りに包まれる。午前中に集中していた観光客が夕方や夜にも分散して、結果的にピーク時の混雑緩和にもつながった。

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