小売り業の出店規制を緩和したフランス、ファーブル対仏投資庁前長官に聞く

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 フランス政府は2008年夏に法改正を行い、小売り業の出店規制緩和などに踏み切った。同国への直接投資誘致などを担当する対仏投資庁のフィリップ・ファーブル前長官(現在は仏アルストムトランスポート社国際部長)に法改正の狙いなどを聞いた。

−今回の法改正の主な内容は。

小売業者と納入業者間の関係見直しを図ったのがポイントだ。改正前の法律ではハイパーマーケットのような大規模量販店を優越的な地位に置かないために納入業者を保護していた。実際には都市部の小規模な商店を守ろうとの狙いがあった。
 
しかし、この法律は30年前の状況に対応していたともいうべきものでもはや、時代には合わなくなっていた。

具体的には、1000平方メートル以下の面積の小売店が行政当局の許認可なしで出店可能になった。かなり大規模なスーパーの新規立ち上げが容易になったことを意味する。
量販店側にはバイイングパワーを十分発揮してもらおうというわけだ。これを受けて、小売り価格は下落すると期待している。最近の原材料や農産物価格の下落、今回の金融危機に端を発した業者どうしの競争の高まりなども後押しする格好となり、おそらく09年内には効果が現れてくる(=値下がりする)だろう。

ホテル開設についても行政や業界団体の許認可をすべて廃止した。日曜営業拡大を趣旨とする改正案も議会に提出し現在、審議が行われている。

−販売店側の競争がないのも小売り価格高止まりの理由なのですか。
 
 量販店は都心部の小規模なディスカウンターなどと競争をしている。それよりもむしろ、量販店が仕入れ値を小売価格に適切に反映できないことに問題があった。量販店側は納入業者との交渉を通じて製品を安く仕入れることができたとしても、その代わりにプロモーション関連の費用を負担させられてしまうといった不透明な関係が存在していた。

−フランスには国境を越えて安い商品を買い求めに行く消費者も多いと聞いていますが。

それは局地的な現象にすぎず、危機感は抱いていない。法改正前にはベルギーとフランスでフランスのシャンプーのほうが高いといった状況があったのは確かだ。しかし、逆にフランスを訪れてワインやスピリッツを購入する英国の消費者もいる。
  
−フランスでも日曜営業に対する規制を見直そうという機運が高まっているのですか。

日曜日はカトリックで安息日。組合運動も行われた結果、食料品店をのぞいて日曜営業は認められていなかった。

ただ、例外規定も存在しており、自動車修理を手掛ける店や家具店、観光地の店舗などはその対象になっている。大売り出し(ソルド)を日曜日に行うのも認められている。審議中の法案は例外規定なしで日曜営業を認める内容だ。

−フランス人の価値観が変わってきたのですか。
 
 カトリック信者は多いが、教会に足を運ぶ人は少なくなっている。もはや敬虔なクリスチャンとはいえない。イスラム強、ユダヤ教の信者なども含めると、月1回は教会に行く人が全体の11%。欧州では最も低い数字だ。

消費者全体の75%は日曜営業に賛成。日曜日に働くと割増賃金が支払われることを若者などが歓迎している面もあるだろう。ただ、成立が見込まれる法律には日曜の労働を拒否した場合、労働を強制するのを禁止する内容も盛り込まれる見通しだ。

−今回の法改正による日本企業への影響は。

日本の小売企業にとっても出店が容易になる。ホテルチェーンも同様だ。自動車用品店のオートバックスセブンなどは日曜営業の規制緩和の恩恵を受けるだろう。完全に自由化されれば出店もさらに増えるのではないか。もちろん、「ソルド」をめぐる規制が見直しになれば、買い物を楽しむ日本の旅行客にもメリットがあるだろう。

−カルフールが日本で思ったほどの成果を上げられなかったように、日本の小売業者もフランスで成功を収めるのは難しいのではないですか。
 
 確かに、オートバックスセブン以外は今のところ、ほとんどプレゼンスがない。ほかにはパリに「ユニクロ」を出店したファーストリテーリングが目立つ程度。だが、ファーストリ社は婦人服店の「コントワール・デ・コトニエ」と下着専門店の「プリンセス・タムタム」というフランスの会社も傘下に収めた。両社はすでに欧州で知名度の高さを誇るが、ファーストリ社の財務基盤の強さとマーケティング力を武器にさらなる飛躍を遂げるだろう。
(聞き手:松崎泰弘 =東洋経済オンライン)

写真: 日仏間の経済交流などに貢献した企業を表彰する「日仏投資賞」授与式での
ファーブル前長官(右)

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