加藤さんの案内で同市と東隣の大鹿村、喬木(たかぎ)村の工事現場や建設予定地を回ることができた。
「長野県駅」は、JR飯田駅の東北東3kmの天竜川近く、中心市街地より低い河岸段丘上に建設される。リニアは川の東岸でトンネルを抜け、天竜川橋梁を渡って長野県駅に至る。駅から西側はすぐに段丘崖からトンネルに入り、中心市街地の北をかすめて名古屋へ向かう。
駅の建設予定地一帯はのどかな住宅地と畑が広がり、ハナモモが咲く緩斜面に水路の水音が響く。「ウグイスの声で目覚めるのは幸せだよね」。地元の方はこう言って目を細めた。巨大開発の存在を示すものは視界に入らない。
すると、加藤さんが市道に埋め込まれた小さなプラスチック鋲を指さした。「これが建設予定地の標識です」。地図を頼りに、駅の整備計画と目の前の景観を何とか重ねると、立ち退きを余儀なくされる家々が像を結んできた。
建設予定地の上方に、小さな祠が見えた。付近の50世帯ほどが長く守り続けてきたといい、地域に根を張った土地柄がしのばれる。集団移転に際して、リニア新駅前に、伝統芸能を残す場の設置を求めた集落もあるという。
本州北端の新幹線駅・奥津軽いまべつ駅が立地する青森県今別町(2016年3月21日付記事「若者を惹きつける『日本一小さい新幹線の町』」参照)のように、いつの日か、全国から集う若者が地元の伝統文化を守る場面もあるのだろうか。
祝賀ムード薄い一因は…
リニアの長野県内ルートは当初、3案が示された。展開によっては「長野県駅」がほかの市に立地する可能性もあった。曲折の末に現行ルートに落ち着き、飯田市に「長野県駅」が建つことが決まって、地元はJR飯田駅への併設を求めた。
しかし、地形上の制約などから実現せず、市内の喜びはややしぼんだ。予想に反して、市中心部には意外なほど「リニア」の文字は見当たらない。まだ開業まで8年あるとはいえ、祝賀ムードが漂っていない一因は、駅の郊外立地だという人もいる。
リニア新駅の予定地周辺では、先行して、アクセス道路の建設準備が進む。中央自動車道とスマートICで結ぶ計画という。市街地の標高差が大きく、関連する基盤整備も大がかりになる。加えて、リニアの駅所在地は、新技術や新たな社会システムの格好の実験場、ひいてはショーウインドウとなりうる。地元や産業界は各種の取り組みを加速させており、自動運転のシンポジウムなども開催されている。
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