リニア開業「8年後」、長野・飯田の歓迎と戸惑い 積み上がる課題と残土、将来像をどう描く

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飯田市は「リニア推進部」を設置し、南信州広域連合が2010年に策定した「リニア将来ビジョン」をベースに「小さな世界都市」「多機能高付加価値都市圏」を掲げて、リニアの広域的活用策を検討している。リニアに限らず、日常的な新幹線の活用は「駅勢圏」、つまり駅利用者が住むエリア、具体的には商圏や通勤・通学圏が基本的な枠組みとなる。市域に加え、圏域での検討をどれだけ丹念に進められるかが、地域づくりの鍵を握る。

大鹿村の中心部。リニアは左手奥から右手側へ、ほぼトンネルで村を横断する。中央奥は赤石岳=2019年4月(筆者撮影)

もちろん、「長野県駅」の名が示すように、最終的には「県域」での活用が課題だが、長野県は広大なだけに難易度が高い。地元は克服のため、リニア新駅から約300m離れた地点への飯田線新駅の建設と、飯田線の高速化を求めている。

飯田市から、東隣の大鹿村のリニア工事現場に向かった。

村内を通る南アルプストンネルは長さ約25km、土かぶり(トンネル上の地盤の厚さ)が最大1400mに及び、世界有数の難工事という。車で約1時間、工事のため新造された真新しい道路とトンネルを挟み、山あいの道路を抜けて、村中心部に近い大西山崩壊礫保存園に着いた。遠くに少しかすんだ赤石岳が美しい。

この保存園は、1961(昭和36)年6~7月の集中豪雨がもたらした「36災害」の被災地の1つだ。突然の山体の崩壊で42人が亡くなった。西南日本を縦断する大断層・中央構造線にも面している。目の前に広がる赤石山脈と、それを形づくり、動かしている大地の力に畏怖の念を覚えた。そのただ中に長大なトンネルをうがつ営みへの敬意とともに、どこか腹の底が冷えるような感覚もが湧き上がってくる。

「桃源郷」で進む大規模工事

村の中心部から山中のトンネル工事現場を目指す。車2台がすれ違えない幅のつづら折りの道もある。

大鹿村の釜沢集落。左手の谷の下方に工事現場入り口がある=2019年4月(筆者撮影)
大鹿村青木地区の工事現場入り口=2019年4月(筆者撮影)

排出される多くの残土が、限られた道路を通って大型ダンプで運ばれつつあり、生活や環境への影響を懸念する異論が強いという。路傍にはいくつも「リニア反対」の看板が立ち、飯田市内とは空気感が異なる。残土の多くは最終的な用途や処分地が決まっていないといい、行方が気がかりだ。

やがて、砂利道の向こうに、トンネル工事現場への入り口が見えた。完成後には「非常口」として使われる予定という。トンネル工事のため、工事現場そのものを見ることはできなかったが、時が止まった桃源郷のような山村の景色と、文明の先端をいく「リニア」のコントラストが、頭と心に納まりきらない。

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