リニア開業「8年後」、長野・飯田の歓迎と戸惑い 積み上がる課題と残土、将来像をどう描く

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リニアがもたらす正負の影響について考え込みながら、別の工事現場入り口を車窓から眺め、大鹿村を後にした。多くの土砂が積み上がった、残土の仮置き場をいくつも通り過ぎた。

今回の訪問では「次はぜひ、新宿からバスで。私たちがリニアを切望する理由がわかるから」と何人かに声をかけられた。新宿―飯田間は4時間余り。北海道新幹線に乗れば、東京から新函館北斗に行ける時間だ。

6月には飯田市に近い豊丘村を訪ねることが決まり、このルートをたどるつもりでいる。

中川村の残土の仮置き場=2019年4月(筆者撮影)

地元の人々も、「リニア時代」が何をもたらすのか、まだ模索を始めたばかりだ。「リニアはどこまで新幹線と呼べるのか」という問いを何度か向けられた。時速500kmで走行し、トンネルが86%を占めるリニアは、半ば飛行機のような交通機関と言える。

品川―名古屋間の乗客はともかく、途中駅に降り立つ人々は、どのような目的やまなざしで、どんな「旅」「移動」を経てくるのか。言葉を交わした地元の方から、リニアに対する困惑や、恩恵に否定的な声を聞く機会もあった。大鹿村の工事現場、地元が参考にすべき新幹線活用のノウハウ、そして目指すべき将来像――。いろいろなものが「まだ見えない」状態にあることがわかった。

ダイヤや駅名、議論はこれから

2027年開業を危ぶむ指摘もある中で、地元として、工事や作業への異論にどう向き合うか。禍根を残さない対処方法や解決方法を見いだせるのか。

リニア関連のポスター(飯田商工会議所)=2019年4月(筆者撮影)

将来的には沿線の命運を直接左右する列車ダイヤ、さらには駅名をめぐるデリケートな議論や対応が待っている。対応・対策はまだ緒に就いたばかりだ。

筆者は小学生のころ、東北新幹線・新青森駅の立地をめぐり、地元住民として反対運動の渦中にいた。育ったコミュニティーを新幹線建設によって壊されてもいる。それだけに、地元がさまざまな異論に、互いにどう向き合い、将来を見いだしていくか、また、地域づくりの過程で工事主体のJR東海とどのような関係性を構築していくか、注目している。

櫛引 素夫 青森大学教授、地域ジャーナリスト、専門地域調査士

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くしびき もとお / Motoo Kushibiki

1962年青森市生まれ。東奥日報記者を経て2013年より現職。東北大学大学院理学研究科、弘前大学大学院地域社会研究科修了。整備新幹線をテーマに研究活動を行う。

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