長野五輪の遺産「スパイラル」休止に学ぶ教訓 ボブスレー施設の後利用を阻んだ障壁とは
こうしたケースは、1年後に迫った東京五輪でも十分に起こりうる。
大会後の収支見込みが現時点で赤字になっている5施設のうちの1つであり、カヌーやボートが行われる予定の「海の森水上競技場」を例に挙げると、指定管理制度を導入して年間30回の水上競技大会開催を計画しているという。
東京都はほかに現時点で水上スポーツ体験、水上レジャー体験、都民参加イベントの開催なども考えているもようだが、それも近隣のレジャー施設とバッティングする可能性も少なくない。近未来の少子化社会を考えると、水上イベントに足を運ぶ人自体が減っていくだろう。
その結果、「考えていたことができなかった」という結末では、長野のスパイラルと同じ道をたどらないともかぎらない。こうした問題は東京五輪をスムーズに開催すること以上に重要なテーマといっていいだろう。
日本にソリ競技のできる施設はなくなってしまった
本題に話を戻すと、スパイラルの製氷断念によって国際大会や国体などの競技大会が開けなくなったというマイナス面もある。そこに頭を痛めているのがソリ競技の関係者だ。
長野五輪開催時にはボブスレー・リュージュパーク(スケルトン)の競技運営委員長の要職に就き、現在も同連盟の理事を務める仙台大学体育学部の鈴木省三教授は「長野が使えなくなり、冬の強化拠点は海外にシフトしている」と現状を説明する。
「長野が休止したことで、日本にはソリ競技のできる施設がなくなってしまいました。それを受けて、ボブスレーの強化選手はドイツ人指導者とともに10~2月の5カ月間、ドイツに行ってトレーニングを積むことになりました。スケルトンも同様で、18―19シーズンはカナダやドイツで集中強化というスタイルを取っていました。
リュージュは日本人指導者が教えていますが、やはり練習拠点は海外に移さざるをえなかった。長野でできるのは筋力トレーニングと夏場にソリを押す練習くらいですから、やはり厳しいのは確かです」
こういった話を聞くと「海外で強化できるならよいのでは」と考える人は少なくないだろう。
しかしながら、鈴木教授らソリ競技に長く携わってきた関係者にとって、長野の施設は紛れもなく希望の光だったという。
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