日本は景気回復に向け大胆な財政支出が必要だ
ケインズの有名な言葉に、「自分はどのような知的影響からも無縁であると信じている実際家たちも、過去の経済学者の奴隷である」というのがある。日本政府はケインズ経済学を実践しようとすることで、自らケインズの言葉が事実であることを証明しようと心に決めているようだ。
レーガン政権の大統領経済諮問委員会委員長だったマーチン・フェルドシュタイン・ハーバード大学教授などのエコノミストたちは、主要国は財政政策を発動すべきであると主張している。そこで日本で流布されている“通説”と“真実”を比較検討してみよう。
通説(1) 麻生首相は公共事業の復活を含む大胆な財政政策を発動した。
真実 第2次景気刺激策の“真水”はGDPのわずか1%にすぎず、これは2008年第4四半期の成長率が年率でマイナス8%になるという予測からすれば、大海に一滴の水を注ぐ程度にすぎない。しかも09年度予算には新しい刺激策が何も含まれていない。09年度予算は過去最大という主張は、09年度予算を08年度の補正後予算と比較すると間違いであることがわかる。2度の補正予算を含めた08年度の最終予算を見ると、09年度の当初予算の歳出額(88・5兆円)は、08年度最終予算の歳出額(88・9兆円)よりも少ない。さらに歳出増の大半は社会保障費の増加分である。特に基礎年金部分の政府負担比率が3分の1から半分に増えたことが主な理由である。高齢者が受け取る総給付額は増えていない。公共事業の支出増はGDPの0・06%にすぎない。
通説(2) 1990年代に発動された財政刺激策は効果がなかった。
真実 日本は90年代に大規模な財政刺激策を講じたが、それは政策効果をそぐような小出しの刺激策であった。政府が財政刺激策を発動したときには景気はすでに回復している。刺激策を緩和するか、景気回復にブレーキをかけたときには景気はすでに後退している。また90年代のように金融システムが崩壊していると財政金融政策が効果を発揮するのは難しい。現在の金融システムは健全であり、財政金融政策を正しく発動すれば効果を発揮するはずである。
財政政策の発動が昔のような無駄な公共事業への投資に復帰することを意味するわけではない。減税、地方自治体への財政支援、非正規労働者への失業保険制度の適用、都市インフラ整備など有効な政策は多い。
可処分所得が増えれば消費も増える
通説(3) 人々は将来をあまりにも懸念しすぎており、すでに欲しいものは手に入れているので、減税があっても支出を増やさない。
真実 消費支出の最大の阻害要因は所得不足である。現在の日本の全労働者の総実質報酬は97年の水準を2%上回っているにすぎないが、支出は12%も増えている。所得が増えれば、もっと支出しているはずだ。