福島除染に巣喰う、ホームレス取引と反社勢力 暴力団関係者の存在
ある時、佐々は仙台駅で路上生活者を物色中、覆面捜査官に写真を撮られ、昨年11月に宮城県警に逮捕されたが、その後、起訴猶予処分となった。彼の背後には暴力団関係者も加わる「ホームレス取引」のネットワークが存在しており、佐々の逮捕に先立つ10月、違法行為に関与した他の業者が労働者派遣法違反容疑などで一斉に検挙されている。
その一人が、稲川会系暴力団元幹部で人材派遣業を営む西村満徳(67)だった。関係者らによると、西村は佐々の顧客で、本格的な除染作業への労働者派遣が禁じられているにも関わらず、ホームレス作業員を仙台市のはずれの宿舎に住まわせて現場に派遣、毎月、彼らの作業の賃金として政府が支払う金額の一部を不当に手に入れていた。西村への直接の取材はできていないが、彼は25万円の罰金処分となった。
西村は地元では顔が広く、仙台市が出資しているホームレス自立支援施設、清流ホームにも出入りしていた。同ホームは2011年の震災のあと、他のホームレス作業員を復興作業に従事させるため、彼に紹介することもあったという。
「彼(西村)はとても良さそうな人にみえた。運が悪かったね。すべての業者についてすべてを調べるのはとてもできないから」と清流ホーム次長、五百澤洋太は西村とのやりとりを振り返る。
西村と同時に、同じ事件に関与したとして、同市にある産廃物処理業者、伸栄クリーン社長、長田俊明(64)と建設会社、フジサイ工建の社員である林文典(54)、元人材派遣業の佐藤拓也(29)も逮捕された。
フジサイの統括課長である佐山健一は、自社の社員が不法な労働者派遣に加担したことについて、「(暴力団が)絡まなければ、人(作業員)は増えない」とロイターに本音を漏らし、「結局、建設業界というのは、90%暴力団ですからね」と付け加えた。
佐山によると、フジサイが労働者派遣で得た金額は1人当たり1000円程度だった。除染下請けの上位にある東京に本社のある建設会社、ライト工業<1926.T>から作業員確保の依頼を受け、それがうまく進まないとわかった時、フジサイは伸栄クリーンに支援を頼み、西村に発注が行ったという。
ライト工業は大林組の下請け系列のトップにあり、日本国内だけでなく米国にも子会社をもつ大手企業で、福島地域での除染に約300人の労働者を送っている。福島での除染について、同社は現地での事業が深刻な人材不足に直面していると認める一方、取引相手だったフジサイが間接的にせよ暴力団とつながっていたとは知らず、だまされていた、と訴える。「下請け企業をチェックするにしても、彼らが正直でなければ難しい」と同社の広報担当者は話す。
大林組、ライト工業とも同事件において不正はないとされ、処罰も受けてはいない。しかし、大林組の場合、自社が管理する事業に暴力団関係者の関与が表面化したのは、この事件だけではない。
昨年3月、同社が手がけた福島での除染作業をめぐり、住吉会系暴力団元幹部が山形地方裁判所で労働者派遣法違反の罪で執行猶予付き有罪判決を受け、さらに11月には同法違反容疑で山口組系暴力団幹部とその家族らが高知・福島両県警合同捜査本部に逮捕されている。
大林組では、ロイターの取材に対し、「我が社として、こうした事件が立て続けに起きていることを深刻に受け止めている」(市川淳一広報担当)とコメント。下請け業者との契約では暴力団などの排除条項を盛り込む一方、警察との協力も徹底していることなどを強調した。