福島除染に巣喰う、ホームレス取引と反社勢力 暴力団関係者の存在

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1月8日、福島での除染や復興事業の一部が、作業員不足につけ込んだ不法行為の温床となり、暴力団関係者の資金源にもなっている実態が明らかになった。写真中央は復興作業の経験がある西山静也氏(57)。仙台駅で先月撮影(2014年 ロイター/Issei Kato)

[仙台 8日 ロイター] -冬場の最低気温が氷点下にもなる未明の仙台駅。凍てつく寒さをこらえながら、段ボールにしがみつくようにして眠る路上生活者たちを、ほぼ毎日のように訪れていた人物がいる。

元プロレスの興行師だったというこの男性は生活困窮者を支援するケースワーカーではない。放射能汚染が続く福島での除染作業などにホームレスを送り込む手配師のひとりだ。

「俺のような手配師は誰でもここに来て、作業ができそうなやつを探してきたんだ」。

がっしりした肩を揺すり、寝込んでいるホームレスの間を歩きながら、佐々誠治(67)はロイター記者にそう話した。除染やがれき処理などに作業員を送り込む手数料として、佐々が受け取っていた謝礼は作業員1人当たりおよそ1万円。始発電車もまだ動いていない夜明けの仙台駅は、実はそうした「ホームレス調達」の拠点と化していた。

福島地域の放射能汚染によって避難生活を強いられている被災者は14万人にも及ぶ。彼らが帰還するには、徹底した除染や復興推進が絶対条件だ。しかし、ロイターによる政府資料の分析や多数の関係者への取材で明らかになったのは、国から膨大な事業費が流れこむ除染や復興事業の一部が、作業員不足につけ込んだ不法行為の温床となり、暴力団関係者の資金源にもなっている、という実態だった。

暴力団関係者への依存

ホームレス作業員の手配師として佐々が関与していた事業は、福島市の道路除染を行うために発注された約1億4000万円の契約の一部だった、と佐々を職業安定法違反容疑で逮捕した捜査当局者は話す。その主契約企業は大手ゼネコンの大林組<1802.T>。佐々が仙台駅で調達したホームレスたちは大林組の下請けに連なっている業者4社を経由して、福島での除染作業などに投入された。

「自分は人を送ればいいだけ」と、佐々はロイターの取材に語った。「送って、お金と交換すればいい。その奥までは入れない。こっちは関係ないから」。

だが、佐々がうまみを感じた手配師ビジネスが、ホームレスたちに過酷な結末をもたらすことも少なくなかった。佐々に送り込まれた作業員が受け取る賃金は、大林組の下請けが賃金予定額として支払う金額の3分の1程度しかない。

捜査当局などによると、残りの3分の2は仲介する業者の懐に入る。食事と寝泊まりする場所の費用を差し引けば、作業員の手元に残る賃金は時給600円程度。福島県の最低賃金(675円)を下回る額だ。作業員の中には、食費と宿舎費用を差し引かれて持ち金が底をつき、借金する羽目になる例もあるという。

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