日本の車載電池が「排ガス規制で受ける恩恵」 ライバルは韓国・中国、問われる成長戦略

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日韓中の鍔迫り合いが続く電池業界、今後の行方を占う各社の展開が日進月歩で進んでいる。投資力で存在感を示している韓国のLG化学、サムスンSDI、SKイノベーションのトップ3が欧州でのLIB生産拠点の構築と拡充に余念がない。同時に、2020年の中国政府による補助金終了に伴いフラットな市場での競争段階に入ることで中国生産拠点での回帰も進む。

ちなみに筆者は、2004年9月から2012年12月までサムスンSDIに役員として在籍し、素材開発戦略、電池研究戦略、事業拡大戦略など技術経営に携わった。

その経験からみると、サムスンSDIをはじめ韓国勢は今後もスピード感をもって積極果敢な投資を続け、顧客獲得で実績につなげる展開が見込まれる。LG化学はコストリーダー(コストを積極的に下げる努力で勝負する戦略)の強みを発揮し、米欧韓の自動車各社への供給実績で特に存在感がある。

日本の電池各社にとって「追い風」

対して、補助金で圧倒的な成長を遂げてきた中国CATLやBYDはフォローの補助金がなくなることで、今後の競争力と真価が問われる。この現象は、日系電池各社にとっても追い風となりそうだ。

中国に投資ができていないGSユアサコーポレーションではあるが、2009年にホンダとの合弁で事業展開しているブルーエナジー(BEC)、また2007年に三菱商事および三菱自動車との合弁でLIB事業を展開しているリチウムエナジージャパン(LEJ)を、ホンダと三菱自動車の電動車拡大戦略と強くリンクさせていくことで成長は期待できる。

東芝は耐久性に優れたSCiBを基盤に、スズキのマイルドHEVであるエネチャージのヒットで成長を遂げている。フルハイブリッド車やEVには適用しづらい同電池ではあるが、現在、東芝―スズキ―デンソーとの協業によりインドでのSCiB生産拠点を構えることで路線拡大に打って出ている。

日立グループの車載電池事業を担うビークルエナジージャパン(本年3月29日に名称変更)は、HEV用の出力型LIB事業に特化するビジネスモデルを固めた。これまでGMや日産へのLIB供給で事業を存続させてきたが、今回の出力特化型のLIBを進化させることで存在感が増す可能性がある。パナソニックがトヨタ主導の角型LIB事業に進むことで、トヨタ系以外の自動車各社へのビジネスを拡大できる機会が訪れるように映る。
 

佐藤 登 名古屋大学客員教授・エスペック上席顧問

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さとう のぼる / Noboru Sato

1978年横浜国立大学大学院工学研究科電気化学専攻修士課程修了後、本田技研工業に入社。1989年までは自動車車体の腐食防食技術の開発に従事。社内研究成果により1988年には東京大学で工学博士号を取得。1990年に本田技術研究所の基礎研究部門へ異動。電気自動車用の電池研究開発部門を築く。1999年から4年連続「世界人名事典」に掲載される。栃木研究所のチーフエンジニアであった2004年に、韓国サムスングループのサムスンSDI常務に就任。2012年12月にサムスン退社。2013年から現職。イリソ電子工業社外取締役。

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