200万人の熱気に圧倒--オバマ大統領就任式 現地体験記

ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小


 熱狂が、すでに数日前からアメリカを支配していた。オバマはパレードの際にどんな車に乗るのか。鼓笛隊のユニフォームはどんなものになるのか。セレモニーに参加する有名人は誰か。当日活躍するアンチスナイパー(スナイパーを撃退する警察当局のスナイパー)の人となりは・・・ほとんどどのテレビ局も、朝のニュース番組はいつもこんな感じだった。

バラク・オバマは史上初の黒人米大統領として、就任式にも従来の数倍規模の200万人近い人が首都ワシントンDCに押し寄せると予想されていた。開催する前から「歴史に残る」と喧伝された今回の就任式。1月半ば、デトロイトモーターショーの取材で米国滞在を予定していた記者は、普段は米国政治には無縁の日本人だが、さすがに歴史的瞬間を見てみたい気持ちは抑えられない。就任式のある20日にワシントン入りすることをしっかり計画に組みこんでしまった。

20日朝8時。ワシントンDCの中心駅であるユニオン駅を出ると、まだ薄暗いと言うのに、目の前にはすでに大勢の人が集まり、騒然となっていた。オバマ大統領の支持基盤となった若者層がやはり多いが、老人もいる。帽子やトレーナーなど、全身をオバマグッズで”武装”した黒人のおばちゃんが歩いている。家族連れも多い。平日なので、おそらく一家で休暇をとったのだろう。車椅子で参加している人もいる。

「オバマ、1ドル! オバマ、1ドル!」、露天商はこう叫んで、オバマバッジを売っている。何台も止まったパトカーからは時折、サイレンが鳴り響き、警察や兵隊は周囲に警戒を払いつつ、集まった人々を誘導していた。

就任式の約200万人に及ぶ人ごみがどんなものなのか。イメージが沸かない大きな数字だが、明治神宮の正月三が日の初詣客が約300万人。二日分の初詣客がいっぺんに集まったような感じだ。ワシントンDC市街中心部には交通規制が敷かれ、あらゆる道路が歩行者天国となっていたにも関わらず、通りは人でびっしりと埋まり、ほとんど身動きが取れない状況になっていた。
 
 すし詰め状態の道路を、非常にゆっくりとしたペースで前に進む。

気が滅入るようなこの間も、人々は陽気だった。「この人ごみ自体が歴史的な瞬間よ」と、私の隣の白人女性は興奮気味だった。遠くの人ごみの方からはたびたび、「3、2、1、Yes、We Can!」、「オバマ!オバマ!」といった、コールの大合唱が起こり、勝手に盛り上がっていた。

人を巻き込んで楽しませようとする人間が10人に1人くらいの割合でいて、冗談をまき散らしては他人を笑わせていた。今日が特別な日という理由もあるかも知れないが、アメリカの人たちのこうした、知らない人ともすぐに仲良くなって退屈をハッピーな状況に作り変えてしまう明るさには、感心する。

そのまま3時間ほどだらだらと誘導された末に、私はある場所に流れ着いた。

そこは「ナショナルモール」(→地図)。ワシントンDCの中心街に位置し、米国会議事堂から約4キロにわたって広がる巨大な国立公園である。私は、そこに広がる光景を見た時、さらに唖然とした。

真っ青な空を突き刺すように白い石柱「ワシントン記念塔」がそびえ立っている。この石柱を囲むように集まり、うごめいている塵のようなものは、圧倒的な数の群集だった。いったいどれくらいの人がいるのか、頭がくらくらする。一つの場所にこれだけの人が集まる光景は、私の想像力の枠を超えていた。公園の随所には、巨大なスクリーンが設置してあり、就任式の正式なチケットを持っていない人達は皆、そこに集まって観覧できるような仕組みになっていた。

11時30分、就任式が始まる。私が到着した当初はばらばらだった群集が、しだいにスクリーンに釘付けになる。しかし、しばらくたっても目当ての大統領は姿を見えず、周囲には飢餓感がたまっていく。だから代わりに、ブッシュ前大統領の名前が呼ばれた時、群集からは地鳴りのようなブーイングが巻き起こっていた。

「バラク・オバマ」、名前が呼ばれたのは開始後15分~20分くらいだろうか。黒い肌の男の顔が巨大なスクリーンに映った時、想像もつかない数の群集がいっせいに、叫んだ。彼らは、手に持っていた星条旗を振りかざし、視界は広大な星条旗の波に圧倒された。

そして静かに、ゆっくりとオバマの就任演説が始まる。

正直言って、人ごみを歩いてきた疲労と寒さの中、彼の演説の中身を一言一句しっかり理解するだけの思考の余裕を持っていれた人は多くないと思う。割れたような大音響のスピーカーのせいで、声も聞き取りやすくなかった。しかし、オバマの姿がすぐそこにある。そして優しく、雄々しい口調でアメリカの希望の語りかけていること自体に、人々は感銘を受けているようだった。

「アメリカに神の祝福を!(God bless the United States of America)」

そう言って、オバマ大統領は力強い調子で約20分の演説を締めくくると、人々は大歓声を彼に送った。

(西澤佑介 =東洋経済オンライン)

・ワシントン記念塔のもとにも大群衆

・大型スクリーンで就任式を中継

・パレードを待つ大群衆

・オバマTシャツなどあやかり商品の露店もたくさん

・失業し職を求める男性

ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

関連記事
トピックボードAD
政治・経済の人気記事