売れっ子工業デザイナーが考える「理想の電車」 言葉にできない心地よさを「カタチ」にする

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柴田氏の作りたい電車のデザインとはどんなものだろう。

「そもそもデザイナーには、どんなものが作りたいというイメージが先行していることはないと思います。自分が作りたいものを当てはめて作ることはできませんし、自分の考えにピッタリのコンセプトの仕事が来ることもない。どんな街を走っている電車なのか、どういう使われ方をしているのか、そういうテーマがあって初めて突き詰められるものだから、作りたい電車のデザインというのはないのです」

確かに言われてみれば、いや、言われなくてもそのとおりだ。ただ、どういう形で、どういう色で、という具体的な車両デザインの話ではなくても、柴田氏の提案したい電車の話を聞いてみたい。

言語化できない部分に問題が潜む

「自分の仕事の話になってしまいますが」と前置きをしてから柴田氏は話し始めた。今でこそ柴田氏が教授を務める美術大学でも体温計のデザインを提出する学生はいるが、以前、体温計は真剣にデザインする対象ではなかった。ただ、脇の下に挟んで体温が測れるという目的がかなえられるものであればよかった。でも、たとえ体温計だろうと自分のものだから愛着を持って使ってもらえればうれしい、と思いデザインした形が結果として消費者に受け入れられた。

柴田文江(しばた ふみえ)/武蔵野美術大学卒業後、大手家電メーカを経て独立。エレクトロニクス商品から日用雑貨、医療機器まで幅広い領域で活動(撮影:吉濱篤志)

「乗り物も公共のものではあるけれど、会社に行くため、学校に行くため、遊びに行くため毎日のように乗るものだから、使って豊かな気分になれるものをデザインしたいと思っているんです」

今の電車の中のデザインには、座席に座っている人が足を投げ出せないようシートに絶妙な傾斜がついていたり、座る人数を規定するかのような手すりがついている。これはデザインの力で車内を使いやすくしている例だと思うが、そのような便利なアイデアについてどう思うかと聞いてみた。

柴田氏は一瞬考えてから言った。

「今ある問題を解決するのはデザインするものにとって大前提だし、確かにここに何がついていると便利だとか、そういうわかりやすいことはもちろんクリアしたうえで、そうではない部分を私はデザインしたいと考えています。

なぜなら、ハッキリと言語化できるような問題ではないところに、真の問題が隠れているような気がするからです。効率や利便性だけではなく、使い心地とか気持ちよさとか目に見えないところをデザインしたいと思っています」

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