北朝鮮の非核化問題は「三すくみ」状態に 米、韓、北朝鮮のトップ発言を読み解く

著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

どうやら北朝鮮との関係を最優先する文大統領と、北朝鮮の非核化実現を自らの成果にしたいトランプ大統領はまったくそりが合わないようだ。会談の雰囲気も非常にビジネスライクで、とくに2人だけの会談は29分間だったが、そのうち27分間は記者からの質問に答える時間に充てられたという。残りはわずか2分であり、実質的な話をすることはほとんどできなかっただろう。

一方の北朝鮮であるが、金委員長は最高人民会議で次のような施政演説を行った。まず、決裂した米朝首脳会談について次のように述べている。

「アメリカは会談場に出て、一方では関係の改善と平和の風呂敷包みをいじり、他方では経済制裁に必死になって執着しながら、なんとしてもわれわれが進む道を逆戻りさせ、『先武装解除、後体制転覆』(まず北朝鮮の武装を解除させ、その後に金正恩体制を転換する)の野望を実現する条件を整えてみようと非常に躍起になっている」

「アメリカはまったく実現不可能な方法にのみ頭を働かして会談場に訪ねて来た。言い換えれば、われわれと向かい合って座り、問題を解決していく準備ができていなかったし、はっきりした方向と方法論もなかった」

トランプ氏の「決断」に期待する金委員長

米朝間に信頼関係がない中で、すべての核兵器やミサイル関連施設の場所や規模などの申告を求める「ビッグ・ディール」要求は、その後の交渉がうまくいかなければ、アメリカに軍事的攻撃目標を知らせるだけに終わりかねないことを意味するだけに、金委員長はとても応じることができなかった。「先武装解除、後体制転覆の野望」という激しい言葉に、北朝鮮がアメリカの戦略をどう見ているかが示されている。

ところがトランプ大統領に対する金委員長の言葉は一変する。

「私とトランプ大統領との個人的関係は両国間の関係のように敵対的ではなく、われわれは相変わらず立派な関係を維持しており、思いつけばいつでも互いに安否を問う手紙もやり取りすることができる」

トランプ大統領の決断に多くを期待している金委員長の計算がはっきりと見える発言だ。そのうえで、「とにかく、今年の末までは忍耐力を持ってアメリカの勇断を待ってみるが、この前のようによいチャンスを再び得るのは確かに難しいことであろう」と、3回目の首脳会談への期待をにじませている。アメリカ政府を批判するが、トランプ大統領には期待をするという矛盾した姿勢に、北朝鮮のおかれた苦境がにじみ出ているようだ。

アメリカ、韓国、北朝鮮3カ国のトップ発言から読み取ることができるのは、まずトランプ大統領は北朝鮮の全面的非核化を求めるという強硬論を変えていないという点だ。またトランプ大統領が、北朝鮮に対する制裁の解除や緩和を求める韓国の文大統領に信頼を置いていないこともはっきりした。

一方、北朝鮮の金委員長はトランプ大統領との個人的関係を生かして何とか制裁解除を実現したいと考えているが、具体的な方策はないようだ。そして、仲介役を演じたい韓国の文大統領が自らのシナリオを実現するには北朝鮮の歩み寄りを期待するしかないが、どうやら北朝鮮にその気はなさそうだ。

結局、北朝鮮の非核化問題は、アメリカ、韓国、北朝鮮という当事国がいずれも身動きが取れない三すくみ状態に陥っており、当面、大きな動きは期待できそうにない。

薬師寺 克行 東洋大学教授

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

やくしじ かつゆき / Katsuyuki Yakushiji

1979年東京大学卒、朝日新聞社に入社。政治部で首相官邸や外務省などを担当。論説委員、月刊『論座』編集長、政治部長などを務める。2011年より東洋大学社会学部教授。国際問題研究所客員研究員。専門は現代日本政治、日本外交。主な著書に『現代日本政治史』(有斐閣、2014年)、『激論! ナショナリズムと外交』(講談社、2014年)、『証言 民主党政権』(講談社、2012年)など。

この著者の記事一覧はこちら
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

関連記事
トピックボードAD
政治・経済の人気記事