逆風下でトヨタが“大政奉還” 次期社長・章男氏の力量

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逆風下でトヨタが“大政奉還”--次期社長・章男氏の力量

トヨタ自動車は、1月20日、次期社長に豊田章男副社長(52)を昇格させる人事を正式に発表した。6月の定時株主総会を経て就任する。章男氏は豊田章一郎取締役名誉会長(83)の長男であり、旧トヨタ自動車工業を創業した豊田喜一郎元社長(故人)の孫に当たる。実に14年ぶりに、創業家である豊田家への「大政奉還」が果たされる格好だ。渡辺捷昭社長(66)は副会長に就任、張富士夫会長(71)は留任する。

トヨタでは1995年、章男氏の叔父に当たる元社長の豊田達郎相談役(79)が退任して以降、奥田碩取締役相談役(76)、張会長、渡辺社長と、豊田家出身でない人物が3代続けてトップを務めてきた。

この時期での社長交代は、2005年に渡辺氏が社長に就いたときから、ほぼ規定路線だった。07年に創業70周年を迎え、08年に米ゼネラル・モーターズから販売世界一の座を奪還して、晴れてお披露目となるはずだった。

だが昨夏から未曾有の自動車不況で、トヨタも今期、初の連結営業赤字に転落する見通し。逆境下での社長就任に、「プリンスを傷つけていいのか」との声も社内で浮上していた。しかし、早くから“次”の声が上がっていた章男氏も、はや50代。あえて最悪期に登板することで、グループの求心力を高めよう、との判断に至ったようだ。

実は世界のTOYOTAにとって、豊田家は約2%の株主でしかない。ただ、一時はトヨタの持ち株会社化を描いた奥田氏ですら、資本の論理が強まる中で「豊田家はグループの旗」と公言するほど、豊田家はトヨタの象徴として、隠然たる力を保ってきた。

当然、同族経営への批判も考えなかったとは言えまい。わが国の巨大企業を振り返ると、世襲をめぐっては毀誉褒貶(きよほうへん)が相半ばしてきた。パナソニックの松下家や三洋電機の井植家、ダイエーの中内家は、みな継承に失敗。反対にキヤノンの御手洗家のように、無事成就した例もある。こればかりは正解がない。

豊田家の継承とは

これから政財界も含め、多方面から注目を浴びる章男氏とは、いかなる人物なのか。

章男氏は慶應大学を卒業後、米バブソン・カレッジでMBAを取得し、トヨタに入社。44歳の若さで取締役に就任し、中国事業や調達、販売担当などを歴任してきた。どんな要職も「そつなくこなす」印象が強い。

ただし単なるお坊ちゃんとは異なる。学生時代は体育会ホッケー部に属し、大ケガをした経験もある。また自動車レースでは国際C級ライセンスを所有。副社長ながら07年6月には独ニュルブルクリンク24時間耐久にドライバーとして出場し完走した。「ドライバーモリゾウのBLOG」は章男氏個人のブログだ。

「いや、ウチの持ち出しってわけじゃないんですよ!」。昨年10月に開かれた超小型車「iQ」の発表会。米国でのゼロ金利販売について記者に問いただされると、ムキになって反論する鼻っ柱の強い側面ものぞかせた。国内販売担当の時代には、父・章一郎氏の頃から付き合いのある海千山千のオーナーたちにも、頭を下げてきた。

その章男氏には現在、2人の子息がいる。男女各1人だが、2人ともまだ学生の身。章一郎氏には、章男氏と姉の厚子氏しか子供はなく、トヨタ社内では、豊田家直系の人間は章男氏以外にいない。ほかに、章一郎氏の実弟である達郎氏の子息は、40代だがデンソーの常務役員に就任し、「今さらウチにはありえない」(トヨタ幹部)。先の早い話だが、ポスト章男を占うと、豊田家の人間が再びトヨタトップの座に就くには、30年近い「空白」が生じてしまう。それだけ章男氏は大事な“砦”なのである。

だがトヨタはまさに今、創業以来の危機。祖父や父の時代のように、10年政権となる保証は何もない。今後社内やサプライヤー、販売会社に対するリストラなど、トップとして「非情」な役回りにも徹し切ることができるのか。章男氏の前には苦難の道が待ち構える。

大野 和幸 東洋経済 記者

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おおの かずゆき / Kazuyuki Ohno

ITや金融、自動車、エネルギーなどの業界を担当し、関連記事を執筆。相続や年金、介護など高齢化社会に関するテーマでも、広く編集を手掛ける。

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