「瀕死のローカル線」を黒字化した男の経営手腕 ひたちなか海浜鉄道「観光列車は興味なし」

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――実際に着任してみてどうでしたか。

この土地のことを知らないズブの素人がやってくるからということで、市が自治会連合に声がけして「おらが湊鐵道応援団」を組織して待っていてくれた。市・住民・鉄道会社が互いにわかり合い、リスペクトし合って事を進めるといういい関係は、いまも続いている。

――「おらが湊鐵道応援団」は、何人ぐらいでどんなことをやっているのですか。

吉田千秋(よしだ・ちあき)●1964年生まれ。1988年富山地方鉄道入社。2001年、万葉線の第三セクター化に伴い、同社に転籍。2008年からひたちなか海浜鉄道社長を務める(撮影:尾形文繁)

会員登録があるわけではないので何人とはいえないが、普段中心的に活動しているのが十数人。そのほかにも「自分は応援団だ」と意識している人がおそらく何百人かいて、イベント時に駆けつけてくれたり、掃除をしてくれたりする。ウェブサイトやSNSでの情報発信、月刊の『応援団報』の発行で、住民だけでなく旅行者や鉄道ファンにも鉄道がやろうとしていることや利用者の生の声を届けてくれている。

商工会議所の協力もあり、那珂湊駅などで発行する「乗車証明書」を提示すると、沿線の商店や民宿などでさまざまなサービスを受けられる特典もある。地域で「鉄道のお客さん」を大事にしてくれている。なぜそんなにやってくれるのだろうと思うほどだ。

それは、鉄道を存続させるのが目的ではなく、鉄道があることでまちの暮らしをよくしようという思いがあるからだろう。そこが、鉄道に思い入れのある人の応援と、地元の暮らしのうえにある応援の違いだと思う。

年間定期で赤字脱却

――事業を改善するために、どのようなことをやってきたのですか。

注目を集めるような派手なことは、とくにやっていない。収支を支えているのは年間通学定期券の発行だ。これは1年分まとめて通学定期を買ってもらえれば、120日分の往復運賃で年中毎日乗れるというもの。会社にとっては安定収入になる。教育委員会が市内の中学3年生にチラシを配布してくれている。これは第三セクターの強みだ。

ひたちなか海浜鉄道は学生の利用が多い(撮影:尾形文繁)

――利便性の向上には、どんな方策を実施していますか。

金上(かねあげ)駅に交換施設を新設し、金上と那珂湊の2カ所で上下の交換ができるようにした。それによって、勝田―那珂湊間では朝夕の通勤・通学時間帯に40分おきの運行を20分おきに改善した。

また始発列車を早め、最終を遅くした。最終列車は、当初は勝田駅発22時20分ぐらいで、上野発21時の特急なら間に合うという時間だった。これを少しずつ遅くして、現在は23時49分になっている。この時間なら上野22時の特急で帰れるし、水戸や勝田で一杯飲んでいてもゆっくりできる。

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