「瀕死のローカル線」を黒字化した男の経営手腕 ひたちなか海浜鉄道「観光列車は興味なし」

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――ローカル線は基本的に存続すべきというスタンスですか。

絶対に鉄道が必要だとは考えていない。バスのほうがいいところはあるだろう。いまJR北海道が地元に向けて経営状況を開示しているが、それがいちばん大事なのではないか。それを見て、地元が「これでは鉄道ではやっていけないから別の方法を採ろう」とするか、「頑張れば鉄道でできるのではないか」という選択をするか。

その判断をするヒントとして、当社の「ここまでやったら、こうなった」というのを見てもらうのがいいと考えている。地元の意思がいちばん尊重されるべき。外の人間がノスタルジーだけで残せとか鉄道でなければダメだと言うのはおかしい。

今後は延伸計画のほか、新型車両の導入も検討されている(撮影:尾形文繁)

――いま湊線には延伸の計画が進んでいると聞きました。

ひたち海浜公園へ行く利用者が年々爆発的に増加していて、現状は阿字ヶ浦駅からのシャトルバスで対応しているが、それなら公園まで鉄道を3.1km延ばせば来園者の利便性が高まり、鉄道としても投資を回収してさらに収益を上げられるという計算だ。今のところはまだ計画だが、具体的に2024年開通を目指している。

地方のローカル鉄道で延伸するなどという前例がないので、難しいところはある。道路との交差部分において踏切の新設が認められず、立体交差にしなくてはいけないからだ。都会の私鉄や地下鉄の延伸を想定したルールと思われるが、それが沿線に農地しかないローカル線にも適用される。しかし、法律の議論をするよりも前に進めて実現したほうがいいので、高架を前提に設計している。

新車の購入計画も

――実現すると、利用者の構成が変わりそうですね。

現状でも、ゴールデンウィークなどの最盛期には3両編成でも追いつかない状況だ。鎌倉の観光需要が伸びて、江ノ島電鉄では週末などに沿線住民が乗れないという問題が起きているが、そのようなことが懸念される。

まず最盛期の乗客の増加に対応するために、現在勝田―那珂湊間で20分間隔の運行をしているのを、全線に広げる。そのために、阿字ヶ浦駅に交換設備をもう1カ所増設する必要がある。さらに4編成にするには、3両×4本で12両必要になる。単純に車両が4両は不足するので、購入する前提で計画を立てている。当然、運転士などの人員も増やす必要が出てくる。

――地方の鉄道が現在よりも発展するというのは光明です。新駅もできると聞きましたが。

地域としては喜んでいいかどうかわからないが、少子化で2022年に小学校3校と中学校2校を、1つの小中一貫校に統合することになった。その学校を磯崎駅と平磯駅の間に建設し、生徒を鉄道で通学させるという計画だ。その学校のために新駅を設置することになる。

このように、大きなまちづくりの計画の中に鉄道を盛り込んでもらえるのは、大変ありがたい。10年間、住民と行政と鉄道が一緒にやってきたことが結実したもので、これこそが、第三セクターで鉄道を運営する意義だと思う。これから新設校・新駅ができて小中学生が乗るようになる、海浜公園まで鉄道で行けるということになると、湊線の雰囲気はガラッと変わるだろう。

柳澤 美樹子 りゅう文章工房代表

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やなぎさわ みきこ / Mikiko Yanagisawa

「旅・食・人」をテーマとした、著述・編集業。まちづくりや交通、伝統食、神社などに関心が深い。健康・医療を中心に、インタビューなども手がける。信州、金沢、伊勢・志摩をはじめとした地域ガイド、鉄道や生活文化などを取材・執筆。著書に『鉄道廃線跡を歩く』シリーズ、『達人に学ぶ鉄道資料整理術』など。

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