「瀕死のローカル線」を黒字化した男の経営手腕 ひたちなか海浜鉄道「観光列車は興味なし」
――堅実に毎日定期的に利用する乗客を増やしていったのですね。観光客の利用はどうですか。
終点の阿字ヶ浦駅の先に国営ひたち海浜公園があり、10年前は年間来園者数100万人といっていたのが、今や200万人をはるかに超えている。春のネモフィラのお花畑、秋のコキアの紅葉が見事でインスタ映えするということで、シーズンには大人気。また、8月の週末5日ほどに開催する「ロック・イン・ジャパン・フェスティバル」には、1日6万人もの来場者がある。
当初は阿字ヶ浦駅から公園南口まで、シャトルバスを運行して「鉄道で行きませんか」と誘導していた。そのバスルートを変えて、ネモフィラやコキアのある「みはらしの丘」に近い入り口へ届けるようにしたら、お目当てまで近いし、鉄道で行ったうえに裏道なので渋滞はなく時間の計算もできるということで、爆発的に利用者が増えている。
最盛期には3両編成にしているがそれでも乗り切れず、やむなく勝田で路線バスへ誘導している状況だ。そのようなお客さんの3割ぐらいは、帰りに那珂湊で降りて、徒歩10分ほどの「那珂湊おさかな市場」で買い物をして帰るというような、地域への経済効果も出ている。
観光列車は考えていない
――観光車両を造ってお客さんを呼ぶということはやっていませんか。
新車の価格は1両1億5000万~1億6000万円。とても買えないので、日頃から中古車両の出物がないか気をつけている。自社発注の車両は3両だけだ。中古で購入した、三木鉄道で使われていたミキ300やJR東海のキハ11の3両、元国鉄で水島臨海鉄道からのキハ20も、観光用というわけではない。20系は古いので予備的な運用だが、ほかの7両はほぼ均等に回している。
結果的にキハ20を見に来る人もいるし、ミキは関西のほうが懐かしいと言ってくれることもあるが。
鉄道の車両は全般検査という車の車検に当たるものがあり、6年に1度の全般検査で2000万円、その間の中間検査で1000万円かかる。6年で3000万円だから、1両につき年平均500万円の計算になる。これでは年に数回動かして運賃をもらっても採算は取れない。ましてラッピングや改造をすると経費がプラスされる。
沿線に人を呼ぶという目的で行政がお金を出してくれる地域もあるかもしれないが、ひたちなか海浜鉄道では、そのような車両がなければ年間500万円浮くだろうという考え方になる。
――レストラン列車は?
まず採算が取れるかというところからスタートする姿勢の会社なので、それもない。ただ、貸し切りのビール列車はやっている。勝田から阿字ヶ浦まで往復する間、ビール飲み放題で5万4000円(税込み)。
キリンビールから話が来た。先例として富山地方鉄道時代に取り組んだことがある。このときは個人単位で集めても予約時点ですぐに埋まる状況だったが、次第に飽きられてくる。すると、たとえ3人しか予約がなくても動かさなければならなくなる。それで、今回は貸し切りのみにした。
5万4000円のうち、こちらは車両の貸し切り代として半分の2万5000円と消費税をいただく。地元の酒屋さんに残り半分で全部やってもらっている。貸し切り予約がなければ動かさなければいいだけだ。
儲からないから廃線にするかというところから始まった路線なので、収益になるかならないかわからないところに手を出すことはしない。
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