欧州鉄道2大メーカー「合併破談」までの全真相 高速鉄道と信号システム技術の独占に懸念

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再び別の道を歩むことになった両社だが、より強い力を手に入れるため、すでに他社との合併を模索している、という噂が早くも伝わってくる。この中でキーとなってくるのは、シーメンス、アルストムと並ぶ「元ビッグ3」の1社であるボンバルディアの存在だ。

同社は現在3社中でもっともシェアが高いが、一時期は中国中車に吸収されるという話も出ていた。この話は消えたものの、同社は今も他社との合併を模索していると言われている。以前はシーメンスと手を組むべく交渉していたことがあったが、2017年に白紙となった。

アルストムは現在、そのボンバルディアと合併の可能性を模索しているという。ただ、シーメンスとアルストムの合併が認められなかったばかりの状況で、果たして欧州委などがその合併を認めるだろうか。

業界再編の動きが再び

アルストム本社に展示されている、鉄車輪で走行する鉄道車両としては世界最高速度の時速574.8kmを達成したV150型試験車両の模型。高速鉄道車両メーカーの頂点に位置する企業だ(筆者撮影)

アルストムについては、もう1つ気になるところがある。前述の旧フィアット社サビリャーノ工場の処遇だ。今回の一件で、手放すと表明していた同社の振り子技術だが、40年以上もの歴史と技術的蓄積を持った旧フィアット社のスタッフたちは、自分たちは見捨てられたと憤っている者も多い。場合によっては、この部門だけが別の会社と組むという可能性もある。

そのほか、ボンバルディアは日立とも関わりが深く、ロンドン地下鉄の新型車両においては日立と共同で入札した。この際、両社は合併はないと明確に否定していたが、どこで風向きが変わるかわからないのがこの業界だ。そういう意味で、ボンバルディアの動向からも目が離せない。

ビッグ3に集約されることで吸収合併が一段落し、一時は落ち着いたかに見えた欧州を中心とする鉄道メーカーの業界再編は、中国中車という新たな壁が立ち塞がったことで再び活発な動きを見せようとしている。欧州2大メーカーの合併は破談に終わったものの、業界再編の動きは当分の間続いていきそうである。

橋爪 智之 欧州鉄道フォトライター

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はしづめ ともゆき / Tomoyuki Hashizume

1973年東京都生まれ。日本旅行作家協会 (JTWO)会員。主な寄稿先はダイヤモンド・ビッグ社、鉄道ジャーナル社(連載中)など。現在はチェコ共和国プラハ在住。

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