欧州鉄道2大メーカー「合併破談」までの全真相 高速鉄道と信号システム技術の独占に懸念
だが、これらの内容について検討を重ねた結果、欧州委は不十分との判断を下した。とりわけ問題となったのは車両技術の売却に関する部分だ。欧州委は、アルストムの車体傾斜装置技術については高速鉄道に該当しない技術であること、シーメンスの「Velaro Novo」プラットフォームのライセンス売却については、購入した第三者がこのライセンスに基づいて製造・開発を進めていくインセンティブがない内容であるという結論に達した。
アルストムの車体傾斜装置とは、イタリアの旧フィアット社鉄道製造部門と当時のイタリア国鉄によって1960年代から開発された技術で「ペンドリーノ(振り子)」という愛称で知られる。この技術を搭載した車両は、2000年にアルストムが買収した後もイタリアのトリノ近郊にある旧フィアット社サビリャーノ工場でのみ製造されており、現在は開発当初から数えて第4世代となる車両(イタリア鉄道におけるETR600型に相当)が製造されている。
すでに成熟の域に達した技術であり、とくにカーブが多い在来線主体のルートで重宝され、各国でその技術を搭載した車両を見ることができる。欧州の車体傾斜装置付き車両では圧倒的なシェアを誇る。だが、それは高速列車ではなく、在来線を高速で走行するための中速列車(最高速度250キロ以下)に位置付けられるため、これでは欧州委を納得させるには不十分と言える。
シーメンス提案にも疑問が
一方、シーメンスの「Velaro Novo」プラットフォームは、2018年9月のイノトランス(国際鉄道見本市)で発表された次世代型の高速列車コンセプトだ。欧州各国での運行に対応するインターオペラビリティに加え、空力の改善や軽量化によって現行の高速列車「Velaro」(ドイツ鉄道ICE3やユーロスターe320タイプとして運用中)と比べて約30%のエネルギー消費削減を実現するという。
いわばシーメンスの将来を担う基幹車両ではあるものの、昨年4月に試験車両が完成して試運転を行っている段階で、まだ営業用の実車が存在しないコンセプトモデルの状態である。同社が欧州委に提案したのは、その車両を製造・販売するライセンスを期間限定で売りに出すというもので、これも欧州委を納得させるには疑問が残る内容だった。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら