いま日本企業に必要なのは「二兎を追う戦略」だ 「深化+探索」を繰り返して成長したアマゾン

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両利きの概念と、深化と探索の概念をつなげたのが、ハーバード大学教授のマイケル・タッシュマンと、スタンフォード大学教授のチャールズ・オライリーである。彼らは、1996年に『カリフォルニア・マネジメント・レビュー』誌に発表した論文で「進化的変化と革命的変化の両方を実現できる組織」を「両利きの組織」と呼び、この組織が深化活動と探索活動の両方を上手に行えば、漸進的イノベーションと急進的イノベーションの両方を実現できると考えた。

2人はその後も継続的に、時に一緒に、時に別々に、両利きについて研究を続けてきた。その成果をまとめたのが、今年2月に翻訳版が刊行された『両利きの経営』である(原著の刊行は2016年2月)。

同書には、マーチのバランス論にはなかった3つの着眼が存在する。1つ目は、深化のための部門と探索のための部門の活動を調整する能力を持つ「両利きのリーダー」の必要性。2つ目は、探索の方向を3つに分類して、両利きの経営の難しさの程度を論じている点。

3つ目は、深化と探索の「矛盾」に正面から対応することで、既存事業と新規事業の両方を生かす「ビジネスモデル複合」を創出できるかもしれないという「萌芽的な着眼」である。3つ目について2人は十分に論じていないが、筆者(根来)は、深化と探索の「矛盾」への対応が、昨今の日本において喫緊の課題である「既存企業のデジタル化対応」の最も創造的な突破口になる可能性があると思っている。

今回は、アマゾンとSAPの事例を通じて、両利きの経営の何たるかと第1の着眼について説明し、次回では、スイスの時計メーカーの事例を通じて第2の着眼と第3の着眼の萌芽について、コマツの事例を通じて第3の着眼の発展について語りたい。

「深化+探索」の繰り返しがアマゾンを成長させた

企業は、自社の事業を改善し続ける。それはシェアを拡大するためでもあるが、そもそも改善しなければ、現在の市場地位を守ることさえ難しいからだ。オペレーションの効率化、製品やサービスの改善など、「既存事業の深化」は不可欠だ。

一方で、どのような事業にも成長の壁が存在する。市場の大きさや成長には限界があり、自社のとれるシェアにも限界があるからだ。そのため、成長を続けようとするならば、企業は「新しい事業」を加える必要がある。つまり、成長への「新事業の探索」が不可欠なのだ。

上記の事情は、一見すると成長の限界を知らないように見えるネット企業や一人勝ち企業であっても変わらない。その証拠をGAFAの1社であり「時価総額の世界第1位」を争う企業であるアマゾンの成長の歴史に見てみよう。

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