東大カリスマ教授の「教育論+メディア論」 塩野誠×松尾豊 特別対談(下)

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「どうなるかわからない」は、無限大のリスクだ

塩野:でもそうは言っても、先生の研究室には日本のトップの学生がいると思うのですが、そういう日本の中で才能あるとされている若者が、これ以上の伸びるためにはどうしたらいいのでしょうか?

松尾:2つくらいあると思います。ひとつは、成功体験。それが周りにどんどん増えていくことが重要だと思います。

塩野:具体的に、どれくらいの成功体験ですか?

松尾:やはり、身近な知り合いひとりが成功しているくらいではないでしょうか。たとえばネットだったら、ネットで起業してお金持ちになったという人が、ひとりはいる。「あいつにできるなら、自分にも!」っていう雰囲気を作るのが重要な気がします。

松尾豊(まつお・ゆたか)
東京大学大学院工学系研究科総合研究機構、知の構造化センター、技術経営戦略学専攻准教授。同大学院工学系研究科電子情報工学博士課程修了。博士(工学)。専門は、人工知能(推論、機械学習)、自然言語処理、社会ネットワーク分析、セマンティックウェブ、ソーシャルネットワークなど。研究室からは、キュレーションサービスGunosy開発者を輩出。

もうひとつは、学生で卒業してベンチャー起業するという選択肢が得になるようにすればいいと思います。リスクとリターンのバランスですが、人は合理的な意思決定を普通はするので、2つの選択肢があったときに、基本的にどっちが得かということを考えるわけですね。大企業に行くか、ベンチャーを作るかという選択肢があったときに、基本的にはベンチャーが得になるようにすればいいと思います。

塩野:インセンティブ設計ですね。

松尾:困るのが、親が「安定したとこに行きなさいよ」とか言うことですね。「ベンチャーなんかに行くと、この先どうなるかわかんないわよ」とか言うわけです。それってけっこう怖い脅迫で、「どうなるかわからないよ」と言うのは、リスクが無限大の幅を持っている。

リスクが無限大の幅を持っている限りにおいて、掛け算しても比較ができない。失敗してもこれくらいで収まるという範囲を定めないと、どちらかを期待値で選択するということにならないと思います。法律でよくあるのは、たとえば窃盗すると、「3年以下の懲役または100万円以下の罰金」みたいに、必ず上限を決めますよね。あれは非常に重要で、物を盗っただけで殺されていたらたまらない。盗った場合にはここまでで抑えるというのが、社会的合意だと思います。「どうなるかわからないよ」と無限のこと言われると、それはもう合理的な選択をするなと言っているのに等しい。

塩野:私も新卒の人向けの本とか書いている中で、この「親問題」というのは大きすぎることに気づかされました。親が「どうなるかわからない」と言っているところには、ファクトや合理性がないので。学生は可哀そうだなあと思います。特に才能がある子であればあるほど。

松尾:親を選ぶか、自分の思いを選ぶかみたいな選択を迫られてしまいますよね。

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