グーグルと別れても、ゼンリンが案外しぶとい 1000人が足で築いた地図で競合も抜き去る

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ほかにもゼンリンはさまざまなデータ配信サービスを用意しており、住宅地図部門は紙を中心に売り切り型が依然多いものの、3割をサブスクリプション型が占めるまでに成長している。新年度の2020年3月期には中央省庁や地方自治体向けでも月額課金モデルを増やしたい構え。総合行政ネットワーク(LGWAN)に対応したサービスを拡充し、あらゆる部署で地図を活用してもらうべく多様なプランを用意する。

無料化の波というデジタル化の流れに逆らえなかったゼンリンだが、データ整備にも地道にコストを割き続けた結果、BtoBへの取り組みが開花。昭文社とは優劣がはっきりしたようだ。

ゼンリンの前に崩れたライバルは昭文社だけではない。パイオニアグループもそうだ。パイオニアのカーナビ「カロッツェリア」は長らく国内トップシェアを誇り、その地図データを内製化したのが子会社のインクリメントP社。ゼンリンがグーグルやヤフー、ナビタイムに地図を提供しているのに対し、インクリメントPはアップルに地図を提供。iPhoneの標準地図はインクリメントPが地図データを提供している。

ただし親会社のパイオニアは赤字続き。香港ファンドへと傘下入りし、この3月27日には上場廃止となった。「カロッツェリア」自体も首位の座を、ゼンリンが地図データを提供する、パナソニックの「ストラーダ」に奪われている。2017年にはパイオニアに対し、地図世界最大手のヒア社が資本参加し、大株主となった。

足を使い現場でコツコツと積み上げたデータ

グーグルマップの登場によって、誰もが日常的に地図を活用する時代となり、その利用頻度はかつてに比べて格段に高い。ゼンリンも自社の有料アプリが厳しい傾向とはいえ、グーグルなど無料アプリ向けのデータ提供料は高水準で推移している。

ゼンリンの強みは毎年130億円程度もかけて整備する地図データだ。調査員がコツコツと足で稼いだ地図情報である。地図上に見えている以上の構造物のデータを集めているのも大きい。一軒一軒、家屋の表札やビルのテナント名を確認し、店舗の営業時間やコンビニのトイレの有無まで調査する。建物の入口といちばん近い道路がどこなのかも調べあげ、カーナビの精度向上にもつなげていった。

今後は自動運転時代を見据え、高精度3Dマップの整備も進めている。地図の劣化によって、一度はグーグルを困らせたゼンリン。その”希少価値”は思った以上に高まっているのかもしれない。

山内 哲夫 東洋経済 記者

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やまうち てつお / Tetsuo Yamauchi

SI、クラウドサービスなどの業界を担当。

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