ボーイング機墜落でリース業界が「巻き添え」 不幸な事故の裏で誰がとばっちりを受けたか

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国内のリース取扱高(リース契約額の総額)は、2008年秋のリーマンショック後、ジリ貧が続いている。かつては年間7兆~8兆円はあった市場も、2017年度には5兆円を割り込んだ。2018年度は4~12月累計で前年同期比3・7%増と、堅調な動きを示しているが、これはウィンドウズ入れ替え特需が押し上げた結果。2019年度も改善傾向が続くとみるのは早計だ。

しかし、そうした国内市場の軟調を尻目に、大手リース会社の業績は好調が続いている。純利益で3000億円を超えるオリックスを筆頭に、三菱UFJリースなど、2018年度も最高益を射程圏内に収めた会社がひしめく。この好調さを演出している要因のひとつが航空機市場なのだ。

民間旅客機は市場規模の大きな成長産業でもある。既存機(約2万機)の更新需要に加え、新興国の経済成長に伴って旅行需要が増大、新規路線就航が続いているためだ。そこへ、資金力に制約のあるLCC(格安航空会社)が勢力を伸ばしてきたことも手伝い、航空機体のオペレーティングリース需要が高まっている。

今後20年間のジェット旅客機の新造需要は、既存市場の1.5~2倍以上で、3万機とも4万機とも予想される。オリックスや三菱UFJリースなどの国内大手リース会社は、それらの潜在需要を獲得すべく、海外大手の航空機リース会社を子会社化するなど、航空機リース事業を前のめりで拡充してきた。

「737MAX8」に関しては、オリックスも三菱UFJリースも現時点で機体を保有しているが、数は1桁前半とごくわずかのようだ。その機体にしても、すでにオペレーティングリースとして貸し出し中であり、短期的に業績に影響することはない。

長期主体のリース業界が抱える厄介なリスク

問題は中期的な影響だ。三菱UFJリースは2018年7月に「737MAX8」を30機発注。納入は2023年から2025年の間で4~5年先となる。同様に、航空機リースを柱とするジャパンインベストメントアドバイザーも同型機10機を発注、2021年から2022年にかけて納入される見通しだという。

今は事故原因の究明中であり、今後の需要はその結果次第、という面がある。リース業界関係者も「航空機の機体に問題はしょっちゅう起きている。航空機は改修しながら飛ばすようなもの。今回の事故も深刻な状況になるとは思えない」と楽観的である。

現実として、2013年1月にはバッテリーの発火・発煙事故で、ボーイングの中型機「787」が運航停止を余儀なくされた。そのときは米連邦航空局(FAA)がボーイングの改修案をそのまま受け入れ、不具合の原因を不明としたまま、3カ月余りで運航停止を解除した。ただその後、米国家運輸安全委員会(NTSB)がバッテリーの設計ミスとの調査結果をまとめ、FAAの安全認証に問題があったと指摘し、FAAへの批判が高まるという事態も起こっている。

今回は米連邦捜査局(FBI)が早々と、FAAの認証手続きについて捜査を始めたと報じられている。FAAも過去の「787」の轍を踏むことは考えにくく、事故原因の調査をあいまいに終わらせることはしまい。そうなると、調査だけで1年以上はかかるとの見方もあり、航空会社が「737MAX8」の発注を控える可能性はますます高まる。

「そもそも航空機リースのような、高い資産利回りが期待できる事業は、その裏返しでリスクも高い」(外資系証券)。事故に伴う保有機体の人気低下や、それに伴うリース料低下だけではない。ほかにも、世界的景気後退やテロ発生による旅客需要の減退、SARS(重症急性呼吸器症候群)など伝染病のパンデミックに加え、与信先の航空会社の破綻やドル調達スプレッドの拡大など、ビジネス上のリスクもつきまとう、というのだ。

リース会社にとって厄介なことは、発注してから納入までに長期間を要することだ。国内市場が右肩下がりで推移する中では、高いリスクを取りつつ収益を上げるという課題に立ち向かわざるをえない。

次ページこれがリースの業界地図だ
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