ピエール瀧を追い込む世論に見えていない本質 薬物依存症だった俳優が語る「当事者の苦痛」

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出演する作品の出荷や販売、上映などを自粛する動きについても内谷さんは疑問視する。

「撮影中の作品については関わる人たちに迷惑をかけ、今後の撮影にも参加できないので、仕方がないと思うところもあります。しかし、すでに撮影や収録などが終わった作品の自粛については疑問があります。作品に罪はありませんし、(その決定は)瀧さんを追い込むことになるのではないでしょうか」

「刑罰だけではなく治療」を

法律で禁止されている薬物を所持・使用することは「犯罪」になる。つまり、刑罰が科されるということだ。

しかし、薬物依存症は「ダメなことだとわかっているのに、やめられない」病気でもある。内谷さんは「大切なのは刑罰だけではなく治療につなぐこと」と訴える。

「薬物依存は病気です。社会に出ることだけが回復ではありません」と語る内谷正文さん(写真:弁護士ドットコム)

「薬物依存症は病気です。同時に、家族も他人の問題を自分の問題にしてしまい、抱え込んでしまうという共依存症になっていることがあります。当事者も家族も、ともに回復していかなければなりません。治療につなぐことは社会のためでもあります。

社会に出ることだけが回復ではありません。人間関係や心の回復も含めて、『人』として回復することが必要です。罰するだけでは、回復の道を歩むことはできません。

人をよくするのも悪くするのも人です。気軽に相談や話ができる仲間とつながり、回復している人もいます。

報道などでは違法薬物が注目されることが多いですが、市販薬・処方薬の依存も深刻な問題になっています。薬局には薬があふれていますし、簡単に入手することもできます。薬物依存症は誰にでもありうる問題で、ひとごとではありません」

内谷さんが監督を務めた映画『まっ白の闇』は実体験をもとにしている。主人公のモデルは内谷さんの弟だ。

兄にすすめられ、薬物に手を出した主人公。覚醒剤をやめられなくなり、家族を巻き込んで一気に崩壊していく。しかし、主人公と家族は薬物依存症の回復支援団体・ダルクに出会い、回復の道を歩み始めるようになる。

「1人でも多くの人に、回復の光があることを知ってほしい――。映画にはそんな思いを込めました。自分をさらけ出すことは、自分自身の回復のためでもあります。自分のために行ったことが人のためになったとしたら、これほどうれしいことはありません。

当事者も家族も薬物の問題を1人で抱え込まず、ダルクなどの支援団体に相談してほしいと思います。最も怖いのは孤独です」

『まっ白の闇』は東京などで上映され、連日満員御礼となった。現在は大阪で上映中。23日からは横浜での上映が決まっている(詳しくは『まっ白の闇』公式サイトへ)。

内谷正文(うちや まさぶみ)
俳優、映画監督。自身の体験談をもとにした一人体験劇「ADDICTION〜今日一日を生きる君〜」を上演。中学や高校など220カ所を超える公演を重ねている。 https://bumi.jp/profile/

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