新宿を「虎のお面」で新聞配達する71歳の正体 新宿タイガーが45年間も変身し続ける理由

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「タイガーの実家は大きな家で財産持ちなんだ。(中略)でも『俺は新宿で好きなことをやって生きていくから、何かあっても帰れないよ。家のことは任せるよ』と言って新宿に来ているんだよ」

実家の家族については、タイガー本人もこう語っている。

「つい最近、父と母が亡くなって、弁護士を通じていくつもの銀行口座に残された財産をどうするか聞かれましたが、弟(すでに他界)の嫁にあげてしまいました。お金には一切固執しない。だから自由なんです」

「人生はシネマと美女、酒と夢とロマン」

タイガーは常々、新宿タイガーでい続けることについて「世の中にラブ&ピースを届けるため」「人生はシネマと美女、酒と夢とロマン」と語っているが、特に美女の部分が大きな原動力の1つとなっているようだ。

タイガーは映画好きとこの風貌が相まって、俳優や映画監督の知り合いが多いが、ドキュメンタリー映画では女優・宮下今日子をはじめ美女とゴールデン街で飲み明かすシーンがいくつもある。取材時もタイガーは自身のスマホを取り出し、最近飲んだという数多くの美女たちの写真を見せてくれた。

大の映画好きで映画の話になると、本当に止まらない。好きな女優はオードリ・ヘプバーン、マリリン・モンロー、そしてエリザベス・テイラー、イングリッド・バーグマンと美女揃い(写真:梅谷秀司)

「こうやってシネマと美女がちゃーんと実写となって目の前に現れる。こういう夢があるからこそ『人生は虎で始まり、虎で終わる』なんですよ。でもどんなに好きな人が目の前に現れても、夢とロマンでいいんです。それ以上望んじゃダメ。そんなの望んだこともありません」

ドキュメンタリー映画中にはこんな印象的な場面もあった。タイガーが、最も好きな映画で過去に15回も劇場で観たという『ローマの休日』を映画館の最前列で観ているシーンだ。マスクを外したタイガーは、あんぐりと口を開け、にっこり笑いながらスクリーンに魅入られている。年齢は違えど、名作『ニュー・シネマ・パラダイス』に登場するあの子どもと同じような、汚れのまったくない顔がそこにあった。

「なぜタイガーかというと、虎はジャングルの王だからです。何があっても負けないし、ブレない。権力や名誉には一切興味がない。俺は人間と動物が共存した存在だけど、自然を破壊する人間より、野生でいる動物の味方だね」

タイガーに変身することは、不純な精神と決別し、ありのままのピュアな姿で生きるという決意表明なのかもしれない。それは見る人によってはアートであり、生涯をかけたパフォーマンスだ。機会があればぜひ一度実物を見て、その生々しい姿を体感してもらいたい。見れば本当にいいことがありそうだ。

田嶋 章博 ライター、編集者

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たじま あきひろ / Akihiro Tajima

取材ライターとしてビジネス系記事やオウンドメディアの記事を、カレーライターとしてカレー関連記事を執筆。ポートフォリオサイトはこちら。ツイッターアカウントは「@tajimacho」

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