新宿を「虎のお面」で新聞配達する71歳の正体 新宿タイガーが45年間も変身し続ける理由

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タイガーの出身は長野県松本市波田地区。実家は養蚕農家だった。生年は1948年で、現在71歳。タイガーは幼少時代をこう振り返る。

「田んぼの中にある藁葺き屋根の一軒家で幼少を過ごしました。当時はお祭りのときに夜空の下でいろんな映画を無料で観せてくれました。それはそれは楽しみでしたね。だから祭りから祭りへと観に行っていました。あと当時はテレビが始まったばかりでまだ白黒でしたが、月光仮面や白馬童子、まぼろし探偵、快傑ハリマオ、豹(ジャガー)の眼なんかがヒーローでしたね」

タイガーマスクのお面を30枚すべて買った

中学卒業後、地元の梓川高校に進学。3年生のときに競歩大会で優勝するほどの健脚の持ち主だった。そして卒業後に上京。練馬区の江古田駅界隈で読売新聞の新聞奨学生として配達をしながら、大東文化大学に通った。ところが大学は2年で中退。そのまま新聞販売所に就職した後、現在も所属する新宿の朝日新聞の販売所に移籍。担当は新宿三丁目地区。その後、タイガー誕生となる契機が訪れる。

「歌舞伎町にある稲荷鬼王神社のお祭りで、いろいろなお面が50枚ズラーッと並んでいたんです。その中にあったタイガーマスクのお面を見て『これだ!』と直感で感じました。あるだけすべての30枚を買い、それを今もストックしています。だからずっとタイガーをやれているんです

もともと変身願望はありましたが、新宿三丁目という昔ながらのロマンと大繁華街がみごとに調和したすばらしい舞台とお面という2つが組み合わさらなければ、新宿タイガーは生まれませんでした。当時は新宿三丁目からコマ劇場まで、自転車で飛行機乗り(足を後ろに投げ出して体と地面が水平になる乗り方)で、ノンストップで行くこともありました」

以降、新宿に“怪人”がいると、多くのテレビ、雑誌で取り上げられるようになる。ドラマや映画に出演することもあった。ただ、人から罵声を浴びせられたり、酔っぱらいにからまれたり、殴られる・蹴られるといった暴力を受けることもあった。勤め先や朝日新聞本社からも、はじめは「その格好で配達はどうなのか」と、いい顔はされなかったが、愚直に続けることで次第に容認されていったという。

「新宿が大好き」という新宿タイガーは、近年訪日外国人からも人気。これからも新聞配達を続けるつもりだ ©「新宿タイガー」の映画を作る会

とはいえ、やはり気になるのは原田さんがタイガーとなるまでに、いったい何があったのかだ。しかしそのことに話を向けると「直感に理由なんてないんです」といった返答となり、すぐに別の話に移ってしまう。前述のドキュメンタリー映画の中で、タイガーの親友で俳優の久保新二氏がこう話す場面がある。

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