行政手続きを簡単にする「ガブテック」って何? 新興企業の力を借り、住民の不満解消目指す

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自治体の間にも「ガブテック」の動きは広がっている。東京・池袋から特急電車で約70分。人口約8300人の埼玉県横瀬町は、同町を拠点にビジネスプランやアイデアを実現したい企業や個人と役場をつなぐプラットフォーム「よこらぼ」を2016年10月に立ち上げた。

同町の富田能成町長は「この町は今後20年で人口が3分の2になる未来が想定される消滅可能都市。小さな町なので資源は有限であり、町をオープンにして、外からヒト、モノ、カネ、情報を流入させて、新しい化学反応を起こす新しい仕掛けが必要だった」と熱を込める。

官民連携のユニークなプラットフォーム「よこらぼ」を発案した埼玉県横瀬町の富田能成町長(記者撮影)

さまざまな自治体でも数多くの事例があるように、よこらぼは官民連携の一種といえるが、ほかの事例と違うのは「地域を活性化したいとか、病院のリストラをしたいといった、具体的な課題から入っていない点」(富田町長)だ。課題ではなく、「プロダクトファースト」で、外部のプロダクトやプロジェクトが町のために役立つと判断できるなら、何でもいいからとにかく受け入れる。そうした前向きの姿勢が外部の提案を呼び込み、これまでベンチャー企業やNGO、大学のサークルなどから95件の応募があり、50件の事業が採択された。

具体的には、議会の議場や町長室、廃校をスペース貸ししたり、LINEを使って小児科医の育児相談サービスを始めるなど、ユニークな事業を実施している。富田町長は「うちは汎用的な課題が多い町なので「実験フィールド」として適しており、ここでうまくいくと、ほかの自治体でもうまくいく。『よこらぼ』の最大の財産は、口コミだけで人的ネットワークをつくれたこと」と胸を張る。

ガブテックは中央省庁を変えるか

ガブテックの「仕掛け人」の1つが経済産業省だ。1月のイベントを担当した同省情報プロジェクト室の吉田泰己氏は「デジタル技術が進展し、民間ではサービスがどんどん向上しているのに、行政では電子申請できるのは一部どまり。官民のサービスギャップは見過ごせないレベルになっている」と話す。

従来の官民連携と違うのは、「行政官のみのキャパシティーでは政策課題に対応できない」(吉田氏)ととらえ、行政の限界をはっきりと認識している点だ。「ITの専門人材を行政内部にきちんと抱え、UI(ユーザーインターフェース)やUX(ユーザーエクスペリエンス)の向上のために外部のスタートアップと協業していく」(吉田氏)という。2018年7月には省内に「DXオフィス」を立ち上げ、官房長をDX室長に、CIO補佐官3人などを任命。民間の求人サービスを利用し、非常勤のデジタルマネージャー2人も採用した。

吉田氏はガブテック推進にふさわしい経歴の持ち主だ。同省入省後、「ガブテック先進国」のシンガポールに2年間留学。「当初はアジアのベンチャーエコシステムを勉強しようと思ったが、国として進める『スマートネーション』の取り組みは先進的だった」と感銘を受けた。

シンガポールではほぼ9割の行政手続きが電子手続きで、中国やインドも急速に行政手続きの電子化を進めている。「負担と給付の公平性」や「行政の業務の効率化」などを名目に鳴り物入りで始めたにもかかわらず、マイナンバーカードの発行枚数が2018年7月時点で1470万枚にとどまるなど、順調とは言い難い日本とは大きく異なる。吉田氏は「このまま労働人口が減っていくのに、紙の作業は相変わらず。IT技術をきちんと取り入れて、働き方改革をもっと進めないと、われわれが本来やるべき創造的な政策づくりや公共の価値(パブリックバリュー)を高める仕事に割く時間がなかなかとれない」と危機感を隠さない。

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