行政手続きを簡単にする「ガブテック」って何? 新興企業の力を借り、住民の不満解消目指す

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少しずつ動き出した行政の変化に呼応するように、スタートアップ企業の中に「ガブテックベンチャー」というべき企業も生まれ始めている。

「イギリスやデンマーク、エストニアの試算だと、行政申請に費やされている時間をコスト換算するとGDPの1~2%。日本にあてはめると、5兆~10兆円相当で、日本の人件費総額(200兆円)の20分の1に相当する。社員20人の会社に置き換えれば、1人の社員は行政に書類をつくって出すことに会社員人生を捧げている。これは本当の付加価値なのか?」

内閣府の平井卓也特命担当大臣(中央)と懇談するグラファーの石井大地CEO(左)(写真:グラファー)

今年1月、内閣府の平井卓也・特命担当大臣に対し、あるベンチャー企業経営者が訴えた。2017年設立のベンチャー企業・グラファーの石井大地ファウンダー&CEOだ。同社は、全国1737自治体の3691件の手続き(3月18日現在)について、Webで書類を作成したりダウンロードできるサービスのほか、法人の登記簿謄本と印鑑証明書をWebでカード決済できるサービスなどを提供している。また、転出入や結婚、出生や死亡時に必要な行政手続きを、質問に答えていくだけで簡単に洗い出せるサービスも提供している。

意識はあっても乏しい自治体の専門人材

石井氏は「行政サービスに対する不満の中身は、管轄がバラバラ、手続きが紙ベースかつ手書き、窓口で待たされる、電子申請も使い勝手がよくなく、できるケースが限られている、の4つ。なぜこの添付書類が必要なの、と疑問に思うような手続きもたくさんある。われわれとしては、どこでユーザーが手を止めているかのデータが集まれば、本来の意味でのEBPM(エビデンスに基づく政策形成)になる」と強調する。

ただ、前出の横瀬町や経産省のような意識を持つ自治体はまだそれほど多くないのが実情のようだ。石井氏は「手続きをデジタル化したいと思っている自治体はたくさんあるが、詳しい人材がいなかったり、従来型の発想だと、予算がつくのに時間がかかる。さらに、電子申請を実現するには本人確認の手段が必要で、マイナンバーカードがあれば可能だが、普及は12%程度にとどまっている」と指摘する。

横瀬町やグラファーのような動きを見る限り、ガブテックの動きが反転することはなさそうだが、問題はそのスピード。それは、まだ目覚めていない省庁や自治体がどれだけ覚醒するかにかかっている。

山田 徹也 東洋経済 記者

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やまだ てつや / Tetsuya Yamada

島根県出身。毎日新聞社長野支局を経て、東洋経済新報社入社。『金融ビジネス』『週刊東洋経済』各編集部などを経て、2019年1月から東洋経済オンライン編集部に所属。趣味はテニスとスキー、ミステリー、韓国映画、将棋。

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